ヨン様会はどれだけ凄いか?の考察②(パソコン読者用) | 新・バスコの人生考察

ヨン様会はどれだけ凄いか?の考察②(パソコン読者用)

※2009年・1月18日の記事を再編集


 先日のことです。
 
 仕事を終えた僕は、家に向かって原付きを走らせていました。


 家の前に到着し、近くの自販機でタバコを買うことにしたのですが、家から笑い声が漏れていることに気がついたのです。


 自転車置き場に原付きを停めると、その声は、ますます大きくなりました。「ハハハハハ!」「あんたそれ、1回死んだほうがいいで!」と、すさまじい声が近所にこだましているのです。


 家の中から、食事の匂いが漏れています。チゲ鍋をしているのか、ものすごいニンニク臭で、しかも中で、誰かが歌っています。夜の7時だというのに、レーザーディスクで曲を流しながら、猛烈なダミ声で歌っているのです。


 僕は恐る恐る、ドアを開けました。


 案の定、台所には人だかりができています。するとその集団は、ドアを開けた僕に向かって、声をそろえてこう叫んだのです。


 「アンニョンハセヨーーー!!!」


 この集まりは、ヨン様会。


 近所のオバハンが集まって結成された、ペ・ヨンジュンを応援する私設のファンクラブなのです。僕の家で新年会を開いており、近所迷惑も考えず、ドンチャン騒ぎをしていたんですね。


 メンバーの1人である山本さんが、僕のところにきました。


 「あんた、寒かったやろ。これ食べ!これ食べ!」


 こう言って、アンコウの身を僕の口に運んできたのですが、刃物のようなアンコウの骨がおもいっきり、僕の唇に刺さったのです。


 お前、なんで帰宅早々、骨を刺されないとあかんねん!で、このアンコウ、ほとんど骨やんけ!


 メンバーにはお酒が入り、恐ろしいばかりにテンションが上がっています。


 「柴崎コウって、妻夫木と別れてんな?」


 「らしいな。でもあの女、コロコロと男を変えて淫乱やな」


 このように女性とは思えない、えげつない会話をしているのです。


 するとメンバーの1人が、柴崎コウの話題で思い出したのでしょう。「じゃあ、私、柴崎を歌うわ!」と言って、「♪チュッチュッチュルルルー ルッルー!」と『KISSして』を歌い始めたんですよ!


 勘弁してくれよ、おい!オバハンやんな!?自分、60過ぎのオバハンやんな!?


 「♪恋のチカラ ここにあるー!」


 ないない!で、あってもお前みたいなオバハン、誰も相手せえへんから!


 「♪ねえ もう全部全部 あげるからー!」


 いらんいらん!遺産以外は何ひとついらん!


 「♪はだかの くちびる KISSして!」


 告訴するぞ、もう!もう告訴するぞ、これ以上、逆セクハラを続けるんやったら!


 このように、異常なまでにキャラが濃いのです。


 ヨン様を愛するあまり、行動ひとつとっても普通ではありません。会のリーダーのことを「事務総長」と呼び、中には80歳のババアまでいる始末で、その狂信ぶりから「政治結社」と表現しても差し支えないのです。


 そこで今回は、「ヨン様会はどれだけ凄いか?」の考察②です。


 ヨン様会のメンバーは8名。


 事務総長の山本さん(67歳)以下、うちの母親(副事務総長・63歳)、高田さん(63歳)、喫茶店のママ(61歳)、岡村さん(58歳)、北村さん(46歳)、花木さん(41歳)、沢井さん(80歳)で構成される、平均年齢60歳の猛者ばかり。


 結成されたのは、一昨年の12月。それ以来、月に一度、僕の家で会合を開いており、最近では、週に一度は集まるようになりました。


 そして、会のリーダーである事務総長。


 ヨン様会ではこの役職を巡り、3ヶ月に一度、選挙が行われます。現在は、再選された山本さんがこの職につき、会の実権を握っているのです。


 このことを踏まえていただき、以下、ヨン様会の壮絶さをご紹介します。


①韓国旅行に行くと、尋常じゃない量のおみやげを買ってくる  
 昨年末、ヨン様会が1周年を迎えました。それを記念して、メンバー総出で、韓国旅行に行ってきました。


 行き先は、チェジュ島(済州島)。ペ・ヨンジュン主演のドラマ『太王四神記』が撮影された島で、ロケ地巡りをするべく、旅行会社主催のヨン様ツアーに行ってきたのです。


 旅行から帰ってきたその日、僕の母親はご機嫌でした。「あんた、これ!」と言って、おみやげを渡してくれたのですが、このおみやげがキンパとかいう、韓国の巻き寿司をかたどった携帯ストラップだったのです。


 いらんわ、こんなもん!お前これ、ボランティアが孤児院にまとめて配るタイプのおみやげやんけ!


 それでも渋々、受け取りました。僕の母親は「今から誰に何を渡すかを決めるから手伝って!」と言って、僕に手提げ袋を見せてきたのですが、6袋もあり、中身もパンパンなのです。


 おみやげはヨン様グッズを中心に、万年筆からキムチまで、多種多様。「今からA~Dに分けていくから、名前を読み上げて!」と、僕にお願いしてきました。


 親しい人がAで、距離が遠くなるにつれてB~Dにランクが下がります。Aが韓流グッズ、Bがキムチやチヂミ、Cが韓国のりで、Dに至っては袋に入った韓国のりをばらし、ばらした小さな袋をあげるのです。


 僕は母親に渡されたリストを手に、「三浦さん」「多田さん」と名前を読み上げていきました。母親はそれに合わせて、「三浦さんはB!」「多田さんはC、やっぱりB!」と決定し、スーパーの袋におみやげをぶち込んでいきます。ただ、「あの子は、ゴン太(うちの犬)におやつをあげてくれるからBや!」とか、「あの子はこないだ、うちの畑からキュウリ盗んでたからDにして!」と、子供みたいな理由で決めていくのです。


 ひどすぎるやろ、お前!ていうか、友達に泥棒おんの!?泥棒なんかにおみやげあげんなよ!


 「あの子はキュウリだけと違うで!ゴーヤもめっちゃ盗んでるんやで!」


 大泥棒やんけ!縁切れよ、そんな奴!


 しまいには、「あかん、Dのおみやげが足らん!」と言って家にある韓国の袋ラーメンをぶち込み始めたかと思えば、それすらもなくなってチキンラーメンを普通に入れ始めたんですよ!


 何のみやげやねん、それ!なんや、「スーパーに旅行に行ってきたんです!」とか言うんか!?


 「あの子、アホやからわからへんよ!」


 わかるわ!誰でもわかるわ、そんなもん!日清の「清」を中国と勘違いするアホじゃないかぎりはな!


 翌日、ヨン様会のメンバーが僕の家に集合しました。


 思い出話に花を咲かせ、ふと見ると、全員の胸元に青いバッジが刺さっています。「これ、何ですか?」と訊くと、事務総長の山本さんが教えてくれたのです。


 「これはヨン様会のバッジや!韓国で作ってん!」


 どこの政治結社やねん、お前ら!何なん、その気持ち悪い結束の固さ!?


 「あっ、そうや!たけちゃんに、おみやげがあったんや!」


 こう言って山本さんは僕におみやげを渡してきたのですが、このおみやげが唐辛子のぬいぐるみやったんですよ!


 なんでそんな趣味悪いねん、そろいもそろって!で、買うほうも買うほうやけど、売るほうも売るほうやわ!ジャップはなめられてるわ、コリアンに!


 僕は、沢井さん(ババア)からもおみやげをいただきました。ですがこれに至っては、白鳥をかたどった謎のお守りだったのです。


②ヨン様の悪口を言うと、シャレにならない

 メンバーのヨン様への愛は、ライクではなくラブです。


 それを証拠に、僕が冗談半分に「もしヨン様が死んだらどうします?」と訊いたら、山本さんがブチギレました。「冗談でもそんなこと言いな!で、仮に、ヨン様が亡くなりはったとするわ!でも、うちらの心の中に永遠に生き続けるから!」と、延々と説教してきたのです。


 山本さんはトラックの運転手をしていたほどの猛者で、めちゃくちゃ怖いです。僕よりも背が高く、虎を手刀で仕留めそうなほどの腕の太さで、こないだも「キムチを漬けた!」と言って、タルごと担いできたのです。


 筋トレか、それ!SASUKEにエントリーしろ、お前は!


 しかも首から胸元にかけて、たくさんの傷があります。チゲ鍋をすると、いつも肌着になるので傷が見えるのですが、「3トントラックで壁に突っ込んでん!へへへへへ!」と軽く言うのです。


 お前、トラックで壁に突っ込むか、普通!?で、生きてるか、普通!?で、その傷もよく見たら7つ近くあるって、ケンシロウやんけ!「胸に7つの傷のある男」やんけ、こいつ!


 本当に恐ろしいのです、このケンシロウ。


 ところが先日、僕は再び、ケンシロウを怒らせてしまったのです。


 僕は仕事で、韓国について調べていました。メンバーにいろいろと聞き込みをし、僕が「でもヨン様って、兵役を拒否してるんですね?」と口にした瞬間、空気が張り詰めたのです。


 僕は、「まあ、そんなことより……」と話を変えようとしました。ですが、時すでに遅し。メンバーの1人である高田さんが僕を怒ろうとした瞬間、ケンシロウが「高田さん、うちが行くわ!」と遮り、僕を怒鳴りつけたのです。


 「いやいや、違うから!ヨン様は目が悪かってん!子供のころにテコンドーで目に足が当たって、兵役に行きたくても行けんかったんや!行かなかったのではなく、行・け・な・かっ・た・の!まあでも、あんたはヘタレやから逃げるやろな!でもヨン様は、今でも行きたいと思ってはるよ!国を愛する人で、あんたのような非国民と違うから!」


 なんで俺が非国民やねん、お前!何がどうなったら最終的にそんな結論になんねん!?


 しかも、巻き寿司を食べながら怒鳴りつけたため、口からいろいろなものが出てきました。ニンジンやキュウリを吐き出し、「行・け・な・かっ・た・の!」の「た」で口からウナギ出てきたんですよ!


 勘弁してくれよ、ケンシロウ!死兆星落ちろ、お前みたいな奴!落ちてきても持ち上げそうやけど!


 このように、ヨン様への攻撃を自分への攻撃とみなします。そして先日、ヨン様会についに、内紛が勃発したのです。


 メンバーに岡村さんという、姉妹で参加しているメンバーがいたのですが、お姉さんのほうがケンシロウともめて、除名されました。事務総長には、メンバーを切る権限があります。ケンシロウの命令で、メンバーをはずされたのです。


 ですが、この除名の理由がまた、すごいのです。もともとケンシロウとソリが合わなかったのが主たる理由らしいのですが、それだけではありません。僕が「なんで、除名したんですか?」と訊いたところ、ケンシロウがこう答えたのです。


 「あの子、本当はソ・ジソクが好きやねん!」


 いやいや、そんなことかい!そんなん、許したれよ!


 「うちは、もともとあの子を認めてないから!自転車もボロボロやし!」


 自転車は関係ないやろ!チャリの偏差値を人間関係に持ち込むな!


 ヨン様以外に入れ込みすぎると、異分子扱いをされます。僕の母親も、ヨン様と同レベルでチャン・ドンゴンが好きなのに、ケンシロウが怖くて隠しているほどなのです。


③何でもコチジャンを入れる
 ヨン様会は、僕の家の台所で頻繁に食事をします。


 食事は毎回、韓国料理。昼夜を問わず、チゲ鍋やチヂミ、プルコギやクッパといったからい料理ばかりで、全員の口が常に、コチジャン臭いのです。


 それでも、自分たちで食べるだけなら、問題ありません。ですが、僕の食事にも、強引にコチジャンを入れてきます。昨夏なんて僕がトイレに行っている隙に、ざるうどんのツユの中に入れていたのです。


 勝手なことすんなよ、お前!ざるうどんにコチジャンって、夏が一瞬にして消え去るわ!


 「何でもコチジャンを入れるクセをつけなさい!」


 なんでそんなことしないとあかんねん!何のメリットあんねん、それ!?


 なかでも、花木さんというオバハンは強烈です。


 花木さんはレストランの元シェフで、コチジャンを使った料理を頻繁に届けてくれるのですが、これが死ぬほどからいのです。「死体絞ったんか?」というぐらい真っ赤で、正月に届けてくれたお雑煮など、スープが真っ赤なのはもちろん、モチ自体にもコチジャンが入っていたのです。


 何がお前にそうさせんねん!なあ教えてくれ、お前をそこまでコチジャンへと駆り立てる原動力は何なん!?


 お雑煮の横には置き手紙があり、こう書かれていました。


 『食べるときは七味を振ってください』


 まだ振んの、これ!?こんな赤々しているのに、まだからくすんの!?


 『お好みでコチジャンを追加してくださいね』


 生理止まるわ!これ以上からくしたら、何かわからんけど女の子やったら生理止まるわ!


 花木さんと僕は、同じスポーツジムに通っています。昨年末、僕がランニングマシーンで走っていると隣に来たのですが、前歯という前歯に唐辛子の粒が付着していたのです。


 デコメールか、その前歯!キラキラしすぎてデコってるみたいに見えるわ!


 僕の隣で走り始めたものの、吐き出す息がコチジャン臭いです。「ハアハア」と言いながら、ファイナルファンタジーのモルボルなみの獰猛な息を吐いてきたのです。


 エリクサーいるわ、これ!お前の横におったら、貴重なエリクサーがなくなっていくわ!


 「ハアハア!ハアハア!」


 鼻がコリアンタウンやわ、もう!鼻血止めるのにキムチ突っ込まれた感じやわ!


 このオバハンが隣に来てからというもの、表示画面に出るカロリー消費量が増えました。コチジャン臭い息で頻繁に話しかけられるため、やたらとカロリーが消費されるのです。


 どんな新陳代謝やねん、これ!で、その妙な富士山のTシャツは何?なあ、その「3776」と書かれたTシャツは何って、よく見たらこれにもコチジャン付いてるやんけ!真っ赤やんけ、お前のTシャツ!


 身の危険を感じた僕は、ランニングマシーンをあとにして、お風呂に入りました。ただ、お風呂を終えてジムを出たら、ジムの前のベンチに座った花木さんが素手でチヂミ食べてたんですよ!


 どれだけ韓国押しやねん、お前!共産党員か、お前は!で言うとくぞ、お前は共産党で赤旗か知らんけど、俺はお前に白旗上げるからな!


 とにかく、韓国韓国なのです。それはほかのメンバーも同じで、僕の母親も何かにつけて料理をからくするなど、うちの付近一帯が「リトル韓国」みたいになっているのです。


④恋をしたことで、女を取り戻した
 メンバーはヨン様に恋をしています。恋をしたことで「女」を取り戻し、オシャレに力を入れ始めました。


 僕の母親など、最近では当たり前のように、スカートを履きます。つけまつ毛までするようになり、うちの父親のことを「やっちゃん!」と、かわいいあだ名で呼び始めたのです。


 ブリッコすんなよ、オバハンが!お前も想像してみろ、中尾ミエが「お腹が空いたでちゅ!」とか言っている姿を!?


 それでも僕の母親は、まだましです。メンバーの中に2名、とんでもない「もののけ」が存在しているのです。


 まず、ケンシロウです。


 前回の記事でもご紹介したとおり、ケンシロウはヨン様の前では、勝負服として黄緑色のワンピースを着ていました。最近では黄緑どころか、水色や朱色のワンピースを着るようになり、御年67にして、ピアスを始めたのです。


 まだ傷増やすの、お前!?7つじゃ足らんの!?


 「キムチ、お待ちどう!」


 ピアスして持ってくんな!お前、どこの世界にピアスしてキムチ樽ごと担いでくる女がおんねん!


 それでも一億歩譲って、ケンシロウはよしとしましょう。問題はババアで、女を取り戻したことで、とんでもないもののけに変貌を遂げたのです。


 先日、ヨン様会がうちに集まることになりました。部屋で仕事をしていた僕は、バス停までババアを迎えに行くよう、母親にお願いされました。


 ババアは、バスでやってきます。毎度、たくさんのおみやげを持ってくるので荷物が多く、僕が家まで運んであげることになりました。


 僕は指定された時刻に、バス停に向かいました。すると見覚えのある、風呂敷を持ったババアが降りてきたのですが、赤色のジャンパーを着てやがるんですよ!


 ババア、てめえ、原色使ってんじゃねえよ!ババアは茶色とか黒の「死に色」が相場やねん!


 「あらー!」


 あらーやあるか、お前!で、俺は一瞬、「アラー(の神)」と思ったわ!あり得なさすぎて神の存在を感じたわ


 僕はババアに近づいて荷物を持ってあげることにしたのですが、このババアが香水つけてやがるんですよ!


 ババア、てめえ香水つけてんじゃねえよ!ババアがまとっても許される匂いは線香だけや!


 ババアは僕にお礼を言い、家に到着するまでのあいだ、いろいろと話しかけてきます。しばらくして、僕の横顔を見て、こう言いました。


 「あんた、よく見たら、男前やな!」


 ババアはこの発言後、ちょいちょい、僕に女を見せてくるようになりました。「寒いから、うち、風邪引きそうやわ」と妙にかわいいことを言い、ふと見たら、うっとりした目で僕を見てたんですよ!


 ババア、てめえ恋してんじゃねえよ!ババアに恋はご法度やねん!


 「寒かったら、うちの上着を貸そうか?」


 いやいや、俺ら付き合ってないから!そんな気遣いいらんから!


 マジで僕に恋をしているのです。それを証拠に家に到着したあと、2階の僕の部屋にプリンを届けにきたんですよ!足が悪いのにわざわざ階段を上り、名前で呼んだことなどなかったのに、僕を「たけしさん!」って呼んできたんですよ!


 ババア、てめえ成仏してくれよ!で、あの世で釈迦にラブリンコせいや、お前!釈迦やったら、「如来さん」と下の名前で呼んでも許してくれるわ!


 「たけしさん、スプーン、ある?」


 ないけどあるって言うわ!「ない」と答えて絡まれるリスク考えたら、俺は手で食うほうを選ぶわ!


 ババアを筆頭に、このようにメンバーの誰もが色気づいています。からいものを食べるようになったことから肌ツヤもよくなり、完全に「女」を取り戻したのです。



 そして、最後。これこそが、ヨン様会の真骨頂です。


⑤旅行直前のテンションが異常
 ①でご紹介したとおり、ヨン様会は昨年末、2泊3日の韓国旅行に行きました。


 旅行当日は、関西空港に、朝の7時半に集合でした。4時半に僕の家に集まり、忘れ物がないかをチェックしてから空港に向かうことになったのですが、4時半の集合なのに、4時前に全員集まっているのです。


 早すぎんねん、お前ら!遅れるんやったらわかるけど、全員が30分前に到着なんて前代未聞やぞ!


 海外が初めてのメンバーが多く、異常なまでにテンションが高いです。「事務総長、コチジャンは持ちました?」「持った持った!特大の奴、買ってきたわ!」とか、「ああ!もうすぐヨン様に会える!」「会うことは無理やで!でも近くにいると思うだけで興奮すんな!」「それより、円高ウォン安はラッキーやな!ヨン様だけに、ウォン安ならぬヨン安や!ハハハハハ!」などと会話し、ふと僕の母親を見たら、台所でチヂミを作っているのです。


 そんなん、向こうにあんねん!今食わんでも、向こうに腐るほどあんねん!ヘタしたら、空港に着いて目の前にあるわ!


 僕は、何気にババアを見ました。なにやらカバンをゴソゴソしており、「うち、これがないと寝られへんねん!」と言って、カバンからヨン様の抱き枕を出してきたんですよ!


 ええ加減にせいよ、ババア!ババアとしての一線を踏み外すな、お前は!


 「たけしさん、はい、チヂミ!」


 アメリカ行こかな、俺!何か急にこの国を脱出したくなってきたわ!


 しばらくして、出発することになりました。
 

 空港へは、2台の車で行きます。僕の父親と岡村さんの息子が運転し、僕も何かおもしろい話があるとふんで、ついて行くことにしました。


 僕は、僕の父親の運転する車の助手席に座りました。後ろには、左から山本さん、ババア、僕の母親の並びで座っています。車中もテンションは上がりっぱなしで、山本さんがアメを配ろうとしたのです。


 ですが、袋が固くて破けず、「ああ!」と叫んでイライラしています。僕は怖いもの見たさに助手席の隙間から山本さんを見たところ、ものすごい顔をしています。「この野郎!」とばかりに、眉間にシワを寄せて鬼の形相なのです。


 怖すぎるわ、お前!体が震えすぎてシートベルトもう1個いるわ!


 「この野郎!」


 言うてもうてるやんけ!キレすぎて心の声が出てもうてるやんけ!


 それでも、何とか破けました。ただ、アメが袋から飛び出して僕のシートの下に入り込み、そこに手を突っ込んでも取れないことにイライラしてイスごと持ち上げようとしたんですよ!


 いやいや、俺が座ってるから!ていうか、ちょっと持ち上がったぞ、おい!持てたぞ、おい!


 「(ババアが)うち、韓国でエステしようかな!」


 意味ないねん、お前がやっても!誰に見せんねんって、もしかして、俺!?ちょいちょい鏡越しに目が合うけど、もしかして俺を意識してんの!?


 午前7時。僕らは関西空港に到着しました。


 現場には、看板を持ったツアコンがいます。すると到着するやいなや、同じツアーの人たちとガンガンにしゃべり始めたのです。


 「あなたもヨン様がお好きで?」「『ホテリアー』と『初恋』だったらどっちが好きですか?」とまくしたてるなど、やたらと打ち解けるのが早いのです。その結果、出発前の段階でもう24枚入りの使い捨てカメラがなくなったんですよ!


 なんでやねん、お前!空港でフィルムなくなるって、カリスマカメラ小僧か、お前ら!


 「たけちゃん、ここで写真撮ってや?」


 ただの壁やろ、そこ!何の記念になんねん、それ!?


 「ごめん、うちはこの角(かど)の模様の横で映りたいから、あんたは場所を移動して!」


 「私も角がいい!」


 「あかん、うちが角や!」


 「私が角や!」


 アタックチャンスか!そんなに角を奪いたがる奴、アタック25に出てる奴だけやぞ!


 僕は、メンバーのテンションの高さに酔いました。気分を落ち着かせようとタバコを吸いに行ったのですが、喫煙室でケンシロウがセブンスター吸ってたんですよ!


 67のオバハンがセブンスター吸うか、普通!?そんなドギツイタバコ、男でもめったに吸わんねんぞ!


 「(眉間にシワを寄せて)ふー!」


 飲んでるやんけ、こいつ!完全に煙くゆらしてるやんけ!


 「(眉間にシワを寄せて)ふー!」


 怖すぎるわ!トラウマなるわって、なった!ほんまになった!なにしろその日、俺は飯食えんかったから!お前の顔を思い出して昼飯食う気がせえへんかったから!


 4日後。旅行を終えたメンバーが、僕の家に集まりました。


 現地で撮影した写真を見せてきたのですが、400枚以上も撮影してるんですよ!2泊3日なのに400枚も撮り、初日だけで200枚以上も撮影しているのです!


 学校全体の修学旅行写真よりも多いやんけ、これ!400枚って、これヘタしたら、見終えるだけで2泊3日かかるぞ!


 ふとババアを見ると、白鳥をかたどったお守りを手にしています。


 「たけしさん、このお守りを北の方角に向けて飾っておきなさい!」


 こう言って、僕におみやげを渡してきたのですが、マジでこれ、恋愛成就か何かなんですよ!僕の母親にババアの家に行ったときにたしかめてもらったのですが、僕と対をなすかのように南に向けて飾られてたんですよ!


 ババア、俺、殺し屋雇うぞ、しまいに!プロに託して息の根止めるぞ、お前!