日本異端映画暗黒史[第1章]

黒蜥蜴が観たくてたまらなくなったので蠍座へ行ったところ、なんとも素敵な上映期間中

まず蠍座、昭和とコーヒーの香りのするミニシアター

喫茶スペースが併設されていて、奥まった場所にあるカウンターで読書しながら上映時間を待つのも極上の一時

照明の明かりが落としてあって居心地がいい

劇場の椅子の座り心地がまた良くて、大きくてふかふかな上に、平たいクッションまで置いてある

これ、背中に敷く人が多かったけど座布団みたくしてもいい感じ

本日観たのは黒蜥蜴

江戸川乱歩の怪奇推理小説を、三島由紀夫が丸山(美輪)明宏のために戯曲化したものを映画化した作品

美輪さん(と呼んだ方がしっくりくるので)が演じる黒蜥蜴を見ていると、性別というものが分からなくなる

勿論、作中では女性であって、それを知った上で美輪さんの女装の魅力を堪能するのも楽しみのひとつ

でもそこから意識が離れると、もう目の前にいるのは完全に女怪盗黒蜥蜴

黒蜥蜴がホテルから脱出する際、ドレスからスーツ姿に変装した時も"男装"して逃げるんだな、と自然に思えてしまう

登場から死の後まで、長時間こんなにずっと人を美しいと思って眺めるのは初めてかもしれない

美輪さんも画面からもオーラが発されて、毒々しくて煌びやかさと妖しい暗闇の世界は、当時だから作ることができた気がする

特に黒蜥蜴の私設美術館に集められた美しい物、美しい肉体が、ビビッドな装飾の中に飾られているのは印象的

安っぽく見える色も強烈で、横尾忠則のポスターや放送終了のテレビみたい

強烈といえば、黒蜥蜴の明智への恋心

黒蜥蜴という存在のために明智を殺す黒蜥蜴
殺すことでやっと口にすることができた愛の告白
ソファへの接吻

そして再会
明智を庇うため、部下を殺してしまい泣きながら詫びる姿
自ら毒を飲み、「生きていて良かった」と言い残して死んだ黒蜥蜴

詩的なやり取りも、犯罪のロマン意識にもドキドキで憧れてしまった

はぁ…目まぐるしい展開を追いつつ、感情を追いつつ、舞台や衣装もじっくり見たい

だからもう一度見たい

気に入っている黒蜥蜴の衣装は、取引場の港へ現われた時の服装
白い立ち襟のブラウスと、袖が膨らんだ黒のジャケットとロングスカート、レースのついた淑女帽子がとても上品
大振りの宝石も似合うけど、こういうシンプルなのも好き

岩瀬のご令嬢の白いドレスもお洒落だったし、なによりご令嬢は今見ても可愛らしい容姿で、全裸でトランクに横たわっていてもあまり艶めかしくないお人形感があった

片や友情出演の三島由紀夫は剥製の人形役で雄々しさ全開

ああ、ここで登場したのねと思った

鑑賞しながら思い出したことといえば、小学校の時に借りた「少女探偵夜明」という本

挿し絵が漫画チックで面白そうと思って借りたんだけど、事件の始まりと終わりの部分しか読まなかったという…ひどい

で、その犯人の美少女怪盗が最後に毒を飲んで死ぬ

夜明が「死んでしまうなんてずるいわ」というようなことを言う

この話がフッと頭をよぎった

まあ、明智はそんなことを言うでもなく全てを悟り、脳裏に残った姿か、最後に色々なシーンの黒蜥蜴が映し出される

一瞬、ここにエンドロールが入るのかと思ったら、直後スクリーンに終の文字が浮かんだのが何だか寂しい

黒蜥蜴の死を惜しむ明智

そんな終わり

劇場を出たら、現代に帰ってきちゃって落ち込んだ

名曲喫茶行った時もだけど、突然起こされたみたいな気分になってしまうから、少しでも長く余韻を味わいたい

エログロナンセンスの世界を感じた至福の時間だった