仕事をしていると手ごたえのある仕事がある。
今月に入り、涼子は楽ではないけれどやりがいを感じる仕事に出会った。
今までの涼子のしてきたことが評価を得ているらしい。
去年は苦労してしてきた仕事が突然売上を上げてきた。
今までの苦労が報われた気がした。
取引先の相手も替わったこともあったが、今度はこちらの話も理解しようとしてくれている感じがする。
思えば去年までの取引先の担当者は相性が悪かったのだろう。
こちらが説明しているうちに話をかぶせてきてこちらの説明が全部できないことが多く、イライラしていた。
もうあのイライラした会話をしなくていいと思うととても楽になった。
涼子は男らしいと言われていたが、実は心の奥深くトラウマはいろいろとある。
公立中学の時、ある男子生徒Aが音楽教師から何のやりとりもなく突然
「これから先、あなたが事件を起こして新聞に載ることがあるかもね。」
と言った。
涼子はその言葉が許せなかった。
ほかの先生に相談に行って、生徒に犯罪者になるといった先生が許せない、先生は犯罪者を作らないようにしていくのが教育なんじゃないか、そんな先生にお給料をあげるのは税金の無駄遣いだと伝えたが、「税金の無駄遣い」という言葉じりを取られてまた他の教師に非難されたことがある。
教師たちは自分たちの立場を保身するため、Aがどんなに傷ついているかについてはまるでケアしなかった。
Aのご両親は騒動を避けるためか、学校に対して何も言わなかったが、その時きちんと学校と話し合うべきだったと思う。
そのため矢面はすべて涼子になってしまったが、今でもあの音楽教師は許せない。そのあともいろいろな意地悪をされた。
今まで座っていた席からとんでもない席に移動させられたり、スポーツテストでラインから出ていないボール投げの着地点をラインアウトにされたり、3年の2学期の成績表に3段階落とされた評価をつけられたりした。
とにかく意地悪だけでなく、精神を病んでいるとしか思えない人間だった。
まわりの友人達は頭がいいから、その頭の変な教師に何も言わず黙ってしたがっていた。しかし友人Aを慰めようとする人は誰もいなかった。
人間はずるいと思った。
みんな自己保身のことしか考えていなかった。
その4年後、同じクラスにいた別の男子が酔っ払い運転で交通事故を起こし即死し、新聞に大きく掲載された。
あの時の音楽教師が言った言葉がAではなく、別の男子が引き寄せてしまったような気がする。
あの時にきちんと音楽教師が謝って、私が言ったことはひどいことでした。そんなことは起こらないことを願います、申し訳ありませんでした。といえば、あんな死亡事故が起こらなかったような気がする。
言葉には気をつけなきゃ、と涼子は自分のことも反省しながら思う。
(つづく)