塩田武士『存在のすべてを』朝日新聞出版 2023年刊
<「生きている」という重み、
「生きてきた」という凄み>
作者インタビュー、出版のおりの言葉に象徴されて。
この小説、本の紹介に
「平成3年に発生した誘拐事件から30年。
当時警察担当だった新聞記者の門田は、
旧知の刑事の死をきっかけに被害男児の「今」を知る。
異様な展開を辿った事件の真実を求め再取材を重ねた結果、
ある写実画家の存在が浮かび上がる――」と。
二重誘拐のひとりの子供が<空白の3年>ののち、
祖父母の家に。
その誘拐のノンフィクションかとまがうほどの
警察・犯人・被害者の家族の描写。
「写実画」「写実画家」
「写実とは」「対象を観る」「それをいかに描くか」など
表現者の表現への肉迫はすぐれた絵画論のよう。
「一瞬のやり取りの中に時間の厚みを感じるエピソード」で、
その人物をくっきりと立ち上がらせる。
いままでも塩田武士作品を読んできましたが、
作者の渾身の作品、ではないか、と。