ふはりふはりと昇ってゆこうよ
この印象的なフレーズがある詩、題は「風船乗の夢」。
作曲家 石渡日出夫が曲を書いています。
詩は哲学的で、
虚無感のあふれる中間部(ここがとても好き♪)
音楽の表情、その振幅も一層激しくなっています。
演奏時間7分を越える大曲。
これを歌ったのは2016年、朔太郎生誕130年記念の年。
もう8年前ですか。
この詩を朗読で上演したのは先月のこと。
たいせつな大切な朔太郎作品です。
風船乘りの夢
萩原朔太郎
夏草のしげる叢(くさむら)から
ふはりふはりと天上さして昇りゆく風船よ
籠には舊暦の暦をのせ
はるか地球の子午線を越えて吹かれ行かうよ。
ばうばうとした虚無の中を
雲はさびしげにながれて行き
草地も見えず 記憶の時計もぜんまいがとまつてしまつた。
どこをめあてに翔けるのだらう!
さうして酒瓶の底は虚しくなり
酔ひどれの見る美麗な幻覺(まぼろし)も消えてしまつた。
しだいに下界の陸地をはなれ
愁ひや雲やに吹きながされて
知覺もおよばぬ眞空圏内にまぎれ行かうよ。
この瓦斯體もてふくらんだ氣球のやうに
ふしぎにさびしい宇宙のはてを
友だちもなく ふはりふはりと昇つて行かうよ。
『定本青猫』