滝沢三重子先生、
フランス歌曲の専門家としてわたしは門をたたいたが、
「専門は現代ものよ」とさらりと言われた。
「現代(いま)に生きていて、
その時代のものをやらないで」どうする、と。
その言葉どおり、リサイタルでの曲は意欲にみちたもの。
世界初演をずいぶん聴かせていただいた。
後年はピアノ、ダントン・ボールドウィン(世界的な歌曲の伴奏者)
との相性がよかったのか、よく組んでリサイタルをされた。
そのサントリーホールでのエピソード。
委嘱作品だったため眼鏡をかけ、
楽譜を見るおつもり、だったのですが、
楽屋に置いたまま。
で、誰が取りに行ったかというとかのボールドウィン。
きっと騎士道だったのでしょうが、
「あのボールドウィンをパシリにつかうのはうちの先生ぐらい」
と門下生。
あるいは「大学で教えているから」と
ドイツリートを中山俤一に師事されて、
月一でピアニストとレッスンを受けられて。
「ドイツリートはリサイタルでは歌わないけどね」と。
エピソードは数々ある先生ですが、
毎年夏、生徒を連れブルガリアの声楽セミナーへ。
そのあとのヨーロッパ旅行で、買い物の山。
ミラノの靴屋には先生の靴型があって、
「マダム、これを」とその年の新作を勧められる、とか。
その荷物が重量制限を越えてしまうので、
生徒の荷へ分散。
さらにその後、輸送で靴やバックが!?
ダースで出現。
そうそう、オペラ「ペレアスとメリザンド」
ドビュッシーの日本初演で
小林秀雄が評に書いてくださった、と。
「小林秀雄の全集に載っているのよ♪」
先生、どうしておられますか?
合掌
- ◆滝沢三重子(たきざわ みえこ)
- 東京芸術大学卒
毎日音楽コンクール、ソ連でのコンクール第一位受賞。
ソ連・ルーマニアなど各地で「蝶々夫人」「リゴレット」に主演。
日本においては「椿姫」ヴィオレッタ、「リゴレット」ジルダ、
「セビリアの理髪師」ロジーナ、「フィガロの結婚」スザンナ、
多数のオペラの主演。
ウイーン、ソフィアでのリサイタル。
歌曲のレパートリーは
フランス歌曲(フォーレ・ドビュッシー・ラヴェル・メシアン・プーランク) - ロシア歌曲(チャイコフスキー・ラフマニノフ・プロコフエフ・
ムソルグスキー・グリンカ・ストラビンスキーなど)
日本歌曲、現代音楽の作曲家への委嘱作品など初演多数。
コンクールの審査員としては
毎日音楽コンクール、
ブルガリアでの若手オペラ歌手によるコンクールなどなど。
東京音楽大学教授、二期会会員。