<萩原朔太郎を朗読する> 「卵」 『月に吠える』より | 「月球儀」&「芭蕉座」  俳句を書くメゾソプラノ山本 掌のブログ

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第四句集『月球儀』
「月球儀」俳句を支柱とした山本 掌の個人誌。

「芭蕉座」は芭蕉「おくのほそ道」を舞台作品とする
うた・語り・作曲・ピアノのユニット。
    



俳句を金子兜太に師事。「海程」同人・現代俳句協会会員。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<萩原朔太郎を朗読する>

 

詩集『月に吠える』より

 

 

 

ばくてりやの世界

 

 

ばくてりやの足、

ばくてりやの口、

ばくてりやの耳、

ばくてりやの鼻、

 

ばくてりやがおよいでゐる

 

あるものは人物の胎内に、

あるものは貝るゐの内臓に、

あるものは玉葱の球心に、

あるものは風景の中心に。

 

ばくてりやがおよいでゐる。

 

ばくてりやの手は左右十文字に生え、

手のつまさきが根のようにわかれ、

そこからするどい爪が生え、

毛細血管の類はべたいちめんにひろがっている。

 

 

ばくてりやがおよいでゐる。

 

ばくてりやが生活するところには、

病人の皮膚をすかすやうに、

べにいろの光線がうすくさしこんで、

その部分だけほんのりとしてみえ、

じつに、じつに、かなしみたえがたく見える。

 

ばくてりやがおよいでゐる。