現代俳句同人誌「遊牧」の<句集往来>に
句集『月球儀』が紹介されています。
「遊牧」は塩野谷仁代表で今回116号になります。
塩野谷さんは「海程」の大先輩。
<句集往来>は長井寛さんが書いていらっしゃいます。
<句集往来> 長井寛
『月球儀』 山本 掌
『月球儀』を読み進んでいくうちにいつしか常識を超え
美意識に富んだ不思議な混沌の世界に誘われてゆく。
三月の火喰獣(サラマンドル)を腑分けせよ
狂(た)ぶればのわれは花野の惑星よ
作者は俳句を詠いながら詩への世界へ
読者を誘うのである。
サラマンドルとは伝説の上の
火の中に棲む蜥蜴に似た動物である。
「人間に火を与えるな」とギリシャ神話の
ゼウスはプロメテウスに命じる。
命令に背き拷問に処せられたプロメテウスは
鷹に内臓を啄ばまれるがヘラクレスに助けられる。
月面漂着鵜よきみは飛べるか
鯉幟その空洞を哲学す
作者の思いは月に向う。
「海鵜」は信長も食した長良川の鮎を想起させる句。
二句目、作者は鯉幟の空洞の腸を
連想して知恵や原理を探求している。
白馬(あおうま)のまなぶたをうつさくらかな
東山魁夷の描く白馬のまなこに映る
桜の情景が目に浮ぶ。
父という寒夕焼けを歩むかな
母よ母よ冬の銀河を渡り来よ
大正や昭和を生きぬいてきた両親と
同じ年になった作者が田佇む。
霧を裂きゆく言の葉を一花(いちげ)とし
霧を切り裂くことばが紡ぐ一句を
作者は恩師金子兜太に捧げる。
(「遊牧」116 2018年8月)
『月球儀』扉
装画:伊豫田晃一
装丁:司修