青い菊からこの本へ。
昭和46年から1年間の短歌と
そこから掌編小説からなる瀟洒な本。
装幀は盟友・政田岑生。
1ページに一首。
青の縁取りが短歌をかざる。
昭和46年刊。
人文書院。
目次はこのよう。
桃夭楽
桃夭楽 頭韻鎖歌三十五首
空中伽藍
水中斜塔図
柩
反射祷
水中斜塔
聖母風信
青き菊の主題
蜜月
天使
火宅揺籃歌
網膜遊行 あるひは反・帰去来辞
雄蘂変
I 蘂・アササン
II 蘂・イカロス
III 蘂・カエサル
跋 重陽転
この歌集の短歌をいくつか。()はルビ。
萬象の中なる僕(しもべ)わがために菊青きさきの生(よ)をたまふべし
青き菊の主題をおきて待つわれにかへり来よ海の底まで秋
酸し月のひかり一生(ひとよ)をさかしまに雉子藍青(らんじやう)の身をつるされつ
血は水よりも淡きうつつにかなかなの声す死にかはりても少年
狂ひつつしづけきこころ迷宮の耳に夏鴬の屍(し)沈め
百合科病院、天南星(てんなんしやう)科医師、茄子科看護婦、六腑夜ひらくてふ
藝文のしづかに狂ふ 肉の香の熟瓜(ほぞち)両断して露の夏
イエスは架(かか)りわれはうちふす死のきはを天青金(あをかね)に桃咲きみてり
鈍色に煮ゆるあはびの夕がれひ神は微風のごとよぎるなり
男郎花(をとこへし)白きほむらの一かかへ神のにくしみをかたじけなうす
ねむりこそ死への間道曇日(どんじつ)の穂麦穂のすゑよりあかねさす
流罪ひととき還れば恋ふるよその秋の夢の伽藍に繭は満ちたり
告げざりし行方来し方漆黒のしづくとなりて夜のつばくらめ
すでにして詩歌黄昏(わうこん)くれなゐのかりがねぞわがこころをわたる
火に投げし桔梗の縹(はなだ)一瞬に攣(つ)れつつ告げむここまでは愛
神はおくれて臨みたまふを寝台に父蜜月のさかさばりつけ