「なあ、鈴木。お前はどうなんだよ」


「うん?」


「だからさ、例のことだけどよ」


「ずいぶん漠然とした質問だな」


「とぼけんなよ。本当は分かってんだろ?」


「何のことだよ」


工藤の苛立ちがビリビリ伝わってくる、気がする。


鈴木は疑心暗鬼になる。


ひょっとしてバレてるのか?


鈴木は工藤に対して重大な秘密をもっている。


そう、2週間前から宮本久美と付き合っているのだ。


女子バレー部のアイドル


ぬけがけ。


しかも向こうから告白された。


工藤が宮本のことをこの学校で2番目に好きなことは知っている。


2番目?何故そんなこと知ってるかって?説明するのも脱力するが、こういうことだ。


眠れる獅子の異名を持ち他の体育会系の奴らからも一目おかれている工藤だが、こいつはその風貌に似合わず可愛い女のコランキングを作るという頭のおかしい趣味を持っているのだ。


ご丁寧にエクセルデータで作成しそれを毎月更新してプリントアウトする。


工藤は常に最新のランキング表を胸ポケットにしのばせている。


肌身離さずとはこういうことだ、と感心するほどだ。


そして毎月女子部員がその場にいないのをみはからって部室でランキングを公表するのだ。


ある意味男子部員の儀式になっている。


当然そんな面白すぎるイベントなので他の部からも噂を聞きつけて何人か見学にくる。


今のところ先生や女子にバレてないところをみると、男子の結束の固さは賞賛すべきものである。


そして宮本久美はそのイベントの中でもしばしば話題にのぼっている赤丸急上昇中のアイドルだった。


目があって照れた姿が可愛い。


しかも俺は何度も目が合っている。


ひょっとして俺に気があるんじゃないか。


工藤は遠い目をして語っていた。


本当はよく隣に立っている鈴木と目が合っていたのだが。


嗚呼、面倒なことになったな。


「おい!何黙ってんだよ」


「あ、ああ。で何だっけ?」


「古田のことだよ」


「うん?」


古田?そんなコいたか?


「一年の古田だよ」


「ランキング入りするほどか?一年ってお前チェック早いな」


「わけわかんねーこと言うなよ。お前が勧誘に失敗した一年だよ」


あ、ああ。鈴木は思い出した。そうだ、そうだよな。ホッと胸を撫で下ろす。


「古田は、あれだよ。喧嘩部に入るとかなんとかで、ま、あきらめたほうがいいんじゃないかな」


「喧嘩部か献花部かもまだ分かってないだろ?」


「献花部はないだろ?華道部と間違えたのかもしれないけど、でもなぁ」


「喧嘩部のほうがありえないだろ。そんな部ねーし。あっても学校から部費が下りるはずねーし」


「ちょっと前の映画だけどファイトクラブ的なものじゃねーか?ほらカチッと枠にはまった格闘じゃなくて皆で輪になってその中で殴りあうって感じの。なんか憧れるやついそうじゃん、俺は苦手だけど」


ホッとしたからかいつもより鈴木は饒舌になっていた。


工藤が誰よりもルービックキュー部のことを愛しているの知っている。


いちばん古田の加入に胸を膨らませていたのも工藤だった。


工藤は基本的にインテリ小林の5倍以上の時間をかけてルービックキューブを完成させる。


でも真剣にカチャカチャやっている。


完成しないことも多々ある。


鈴木はなんだか罪悪感を抱いた。


宮本久美に関しては何もできないが、せめて一年生の勧誘くらいは頑張ってみようかと思った。


「やっぱ納得いかないよな」


「おい、工藤」


「うん?」


「俺、古田をもう一度口説いてみようと思う」


「鈴木」


「なんだよ」


「その言葉を待っていたぜ。放課後、一緒に行こうぜ」


「おお」


キャーーーーー


ギャーーーーー


ちょっと熱い友情ドラマを繰り広げていた2人の耳にとつぜん悲鳴がとびこんできた。


「な、何だ」


「1年の教室があるほうじゃねーか?」


キャーーーーーーー


ギャーーーーーーー