「こんばんは!」
……
「こんばんは!」
……
「こんばんは!」
来るのは予想していた。というか今夜来るって前回はっきりと宣言していたから。
しかし何故こんな非常識な時間にやってくるのだろう。
深夜3時
ドアが勢いよく開かれ、しかも妙に大きなゴミ袋のようなものを持ってガサゴソしていたので、目は覚めていた。
「寝てるのかな・・・・」
……
「おばんでがす!」
「うるさいよ!」
「あ、良かった目が覚めたようだね。なかなか起きないから足の指をひねるところだったよ」
「危険な起こし方しないでよ。というかドアから入ってきたときすでに目が覚めたよ」
「そうか」
「というか妖精なんでしょ、あなた?」
「そうだよ」
「どうしてドアから入ってくるのさ。すり抜けろとは言わないけど窓から入ってくればいいじゃん」
「それはあれさ。方位とかあるじゃないか」
「方位?」
「なんというか鬼門とか、そのあれだ。このドアから入ってくるのが妖精としては正しいんだよ」
「もういいよ」
「何がだ?」
「もういいよ、父さん」
「な・・・・」
前回は寝ボケていて脳がうまく働いてなかったが、妖精なんているはずがない。これは全身タイツに特注のルービックキューブ型の被りモノを被ってる父さんだ。他の選択肢がない
「待て。声が全然違うだろ」
「ヘリウムじゃん」
「……」
「もういいよ。なんでこんな馬鹿なマネするのさ。お金だってかかってるし、睡眠時間だって削ってるし」
「母さんよ」
「嘘つけ!」
「なんだか最後の悪あがきのようでカッコ悪かったな。自分でもそう思う」
「そうだね」
「でもこれだけは分かって欲しい。お前の将来の為を思ってしたんだ」
「父親が全身タイツで妖精だと言い張ることが子供の情操教育に良いって本を読んだんだね」
「皮肉屋だな。もっと真っ直ぐ育って欲しい」
「この父親から真っ直ぐ育つってのは奇跡だと思うよ」
「じゃ、殺人犯にはならないで欲しい」
「ならないよ。ぐっとハードル下げてきたね」
「じゃ、東京大学に入学して欲しい」
「そういうのいいからその被り物とって話してよ。ヘリウムの声だけでも不愉快だし」
「俺はお前にルービックキューブをやめて欲しくないんだ」
「……」
「お前は世界で10本の指に入るルービックキューブの使い手なんだぞ」
「ま、たしかに僕より早く完成させる人って会ったことないけど」
「つまりお前の10本の指は世界で100本の指に入るってことだ」
「なんかその計算はいらないよ。分かりにくいし」
「素直な気持ちを言うと、メジャーリーグに入って親孝行して欲しい。ガッポリ稼いで欲しい」
「ストレートだなぁ」
「年間契約のVIPルームでお前の試合を観戦したい。高級シャンパンを飲みながら」
「ないからね」
「あ?」
「ルービックキューブのメジャーリーグって無いからね」
「そんなわけないだろう」
「物心ついたときからずっとルービックキューブをやらされてきたけど、オリンピックの競技種目にもなかったからね」
「ちょっと待て。なんか混乱してるから今夜はやめよう」
「混乱することでもないよ」
「情報が錯綜してるからしばらく日数をおこう」
「錯綜してないし。事実をありのままに言ってるだけだし」
明らかに動揺している父。へリウムガスの効果が消えたのか普通の声になっていた。
「じゃ、おやすみ。早く寝ろよ!」
「よくこの状況でそのフレーズ使えるね」
嗚呼、今夜も眠りを妨げられてしまった。
苛立ちがつのる。
しかし僕には部下がいる。
そう考えると心がウキウキした。
15人の不良と15匹のドーベルマン。
チーム名を何にしようか。
そう考えながら眠りについた。
明日は学校で何かアクションを起こそう。