「健一!お前、何やってんだ!」


「いきなり何だよ、父さん」


「何だよじゃないよ!お前一体どうしたんだ!」


「何がだよ」


「まだとぼけるつもりか!ちゃんと胸に手を当てて思い出してみろ」


「ったくうるさいなぁ。何怒ってんだよ」


「胸に手を当てるんだ!こんなふうに!」


胸に手をあてる父。まるで国歌斉唱のときのロナウジーニョのようだ。


「なんで顔を斜め上にすんだよ!わざとだろ。そういうのムカつくから出て行けよ!」


「お前、ルービックキューブをトイレに流しただろ」


「……」


「何故そんなマネした!当たり前だけどちゃんと流れてなかったぞ」


「ルービックキューブからは足を洗ったんだよ。10年間やってきたけど全然未練なんかないよ」


「お前」


「もっと大事なもの見つけたんだ」


「ま、それについてはとやかくいわん」


「……」


「とにかくトイレに流す発想が許せんのだ。あれは燃えないゴミだろ」


「そっちに怒ってんだね」


「資源ゴミかもしれない」


「ま、どっちかだろうね。ごめんなさい。反省するよ」


「今度から気をつけろよ」


父は部屋から出て行こうとした。なんだかものすごく拍子抜けした。


寝ても覚めてもこの10年間ルービックキューブを延々とやり続けてきた息子を見てきたはずなのに。


突然、この僕がルービックキューブ訣別宣言をしたのだ。もう少しなにか反応してくれてもいいのではないだろうか。


「ち、ちょっと待ってよ父さん」


「なんだ健一。好きなコでもできたか?超出っ歯の」


「違うよ。というか何で僕が超出っ歯を好きにならなきゃいけないんだよ」


「チリビーンズが苦手で困ってるのか?」


基本的に僕くらいの年齢の少年の悩みは「出っ歯の女のコを好きになってしまった」or「チリビーンズが苦手」のどちらかである・・・わけがない。父はこうやって複雑な世の中を強引にシンプルにしないと生きていけないんだ。


「黙ってるとこみるとやはりそうか。給食のときが大変だからなぁ」


「でないよ!チリビーンズはウチの食卓にも給食でも基本的にでないよ!」


「じゃ、悩むことないじゃないか」


「これで親子の会話が成立してるって考えは間違ってるからね」


「ずいぶんな言い方だな。じゃ、その夢ってのは何なんだ?」


「言う気が失せたよ」


「そうか。じゃ、また今度な」


父はとてもあっさりしてる。父はきっと会社ではものすごく仕事ができるか、できないかのどっちかだろう。決して普通じゃないと思う。