互いにサービスゲームをとり、今年も最終セットまでもつれた。
よしここで苦しいときこそエアーKの真骨頂だと、ジャンプをしたつもりのところでラケットを振りぬいた。しかし、球を捉えた感触がない。
「さすがエアーK、見事な(K)空振りだ。」と相手方コートに立つ長男が笑っている。
結局、返り討にあった。
昨夏同様,いい具合にやられて、いい具合に汗をかいた。
コートの外で百合の花も首を振りながら笑ってら。
来年もこうしてコートに立てたらいいな。
30年前に、野辺山で農家に住み込みのアルバイトをしていたとき、その農家の家族と清里にラーメンを食べにきた。
畑に囲まれて生活をしている毎日からいっとき離れて、清里は人通りも多く都会に来たような気がした。
あのときのラーメン屋さんは、何処へいってしまったのだろう。
「ごちそうさまー。」といった男の子のドンブリは汁が一滴も残っていなかった。
農家の幼い兄弟が可愛くて、畑仕事を終えてクタクタなはずなのに、帰りを待っていてくれる子供達を見ると、疲れも吹っ飛んだ。
あれから、幾度と夏を迎え、そして見送った。
二人の子供を授かり、あの農家の家族みたいになれたらいいなとの夢が、そっくり自分を包んでくれた。
見送った夏の面影に抱かれて、心と体を横たえる。
面影と見つめ逢う度に、永久の幸せを夢見ていた。
また夏がきたら、一緒に風になって踊ろうよ。
鳴きやまない蝉しぐれ。
夏はまだ終わらない、いや終わらせない。