風に吹かれて-F1000335.jpg 僕は昨年の雪辱を期して、清里のテニスコートに立った。

互いにサービスゲームをとり、今年も最終セットまでもつれた。

よしここで苦しいときこそエアーKの真骨頂だと、ジャンプをしたつもりのところでラケットを振りぬいた。しかし、球を捉えた感触がない。

「さすがエアーK、見事な(K)空振りだ。」と相手方コートに立つ長男が笑っている。

結局、返り討にあった。

昨夏同様,いい具合にやられて、いい具合に汗をかいた。

コートの外で百合の花も首を振りながら笑ってら。

来年もこうしてコートに立てたらいいな。


30年前に、野辺山で農家に住み込みのアルバイトをしていたとき、その農家の家族と清里にラーメンを食べにきた。

畑に囲まれて生活をしている毎日からいっとき離れて、清里は人通りも多く都会に来たような気がした。

あのときのラーメン屋さんは、何処へいってしまったのだろう。

「ごちそうさまー。」といった男の子のドンブリは汁が一滴も残っていなかった。

農家の幼い兄弟が可愛くて、畑仕事を終えてクタクタなはずなのに、帰りを待っていてくれる子供達を見ると、疲れも吹っ飛んだ。

あれから、幾度と夏を迎え、そして見送った。

二人の子供を授かり、あの農家の家族みたいになれたらいいなとの夢が、そっくり自分を包んでくれた。


見送った夏の面影に抱かれて、心と体を横たえる。

面影と見つめ逢う度に、永久の幸せを夢見ていた。

また夏がきたら、一緒に風になって踊ろうよ。


鳴きやまない蝉しぐれ。

夏はまだ終わらない、いや終わらせない。