解説:荒巻義雄
発行:昭和53年6月30日
定価:320円
早川書房
……白い翼を生やした天使たちは、薄暗い屋根裏部屋にぎっしり犇(ひし)めきあっている。最初ここへ連れてきた時には四、五匹しかいなかった筈なのに、何時(いつ)の間にか数十倍に殖えてしまって今では手もつけられなくなってしまったのだと、マダムは苦々しげに言う。灯りをというマダムの命令に女たちの一人がランプを差し出し、その光が移動して部屋の中を照らし出すにつれて、蜂の羽音に似たざわめきがあちこちから高まった。
『夢の棲む街』より抜粋
《腸詰宇宙》(とその世界の住人は呼んでいる)は、基底と頂上の存在しない一本の円筒型の塔の内部に存在している。その中央部は空洞になっており、空洞を囲む内壁には無数の環状の回廊がある。回廊は、一定の距離を置いて、円筒の内部に無限に存在する。どの層の回廊も完全に一致した構造を持っており、この秩序は、塔の上下いずれの方向にむかって仔細に検討していっても、変化することはない。
『遠近法』より抜粋
解説:荒巻義雄
発行:1980年2月29日
定価:980円
徳間書店
カバー絵:中村景児
発行:昭和55年8月15日
定価:260円
集英社
「奇想天外」第5巻第1号
連作『破壊王―パラス・アテネ』掲載
挿絵:三宅梗之
発行:昭和55年1月1日
定価:600円
奇想天外社
解説:千野帽子
発行:2012年1月10日
定価:760円
筑摩書房
幻想文学作家。岡山市生まれ。本名非公開。
同志社大学在学中の1973年に『仮面舞踏会』を「SFマガジン」(早川書房)のSF三大コンテスト小説部門(のちのハヤカワ・SFコンテスト)に応募し選外優秀作に選ばれ、1975年11月号の「女流作家特集」に掲載されデビュー。
その後、山陽放送テレビ制作美術部に勤務のかたわら、「SFマガジン」、「奇想天外」(奇想天外社)、「SFアドベンチャー」(徳間書店)、「小説ジュニア」(集英社)等の雑誌に作品を発表。1978年、第1短編集『夢の棲む街』を早川書房より上梓。新人らしからぬ硬質な文体と陰影に満ちたイマジネーションで注目を集める。1979年に退職して執筆に専念、1980年には書き下し長編第1作『仮面物語』を上梓するが、1985年以降は作品の発表がなく、その短い活動期間と難解な作品で、長い間カリスマ性をもって幻の作家・伝説の作家と呼ばれてきた。しかし、十数年の休止期間を経て、1999年「幻想文学」第54号(アトリエOCTA)に『アンヌンツィアツィオーネ』を発表して復活。
2000年、約7割の作品が単行本初収録となる『山尾悠子作品集成』を国書刊行会より刊行。2003年9月には書き下し長編第2作『ラピスラズリ』を発表。2010年、掌編小説集『歪み真珠』(国書刊行会)を上梓した。
また、2004年には金原瑞人・谷垣暁美との共訳でジェフリー・フォード『白い果実』(国書刊行会)を翻訳した。
(Wikipediaより抜粋加筆)