【ムックの相棒】

私の友達テイクさん(仮名)の同級生の「ムックの相棒さん(仮名)」のお話です。

ムックの相棒さんはO県の出身で、子供の頃からやんちゃな方でとても強かった人です。

高校生くらいの時はアッチの人とも闘っちゃうくらいの暴れん坊でしたが、ある日突然恋に落ち、ある女性と交際の上に結婚されます。

お子さんも出来て幸せな家庭を築いて立派なパパになります。

奥さんは良家のお嬢さんで奥さんのご両親を必死に口説いて結婚されたそうです。

しかし、結婚するにあたり、奥さんに絶対に不自由な生活はさせないという約束をしていたので、学校の先生をする奥さん以上の収入を得るために
「佐川急便」で働くことにしました。

とても給料は良かったのですが体力的にとても大変で、更により良い給料をもらうために無理をしていたそうです。
そしてその無理がたたり、腰を悪くして退職することになりました。

暫く数ヵ月の間は保険(どんな保険かは確認するの忘れちゃったけど、多分労災と失業保険)で生活出来ていたのですが、なかなか次の仕事が見つからず、とうとう保険で生活できなくなり、奥さんの収入だけで生活することになりました。

お小遣いは1ヶ月3,000円で、小学生のお嬢さんと同じ金額にされちゃったのです。

ムックの相棒さんはそれからちょくちょく職業安定所に行くようになりました。

そして職業安定所にいった帰りは麻雀をするお店に行ってから家に帰るようになります。

ある日そこで中学生の時の先輩のK林さんと会います。大嫌いな先輩だったのですが、お互い大人なのでそれなりの対応や会話はしますが、必要以上に仲良くしないようにしていました。

なぜなら、K林先輩はプロのアッチの人だからです。

ですが、ちょくちょく顔を合わせている内に少しずつ距離が縮まり、携帯の番号交換までしちゃいます。

そしてある日、K林先輩から電話があり、

「お前、今日暇ならちょっとバイトしないか?」

ムックの相棒さんは、

『絶対にヤバい仕事だよ。昼過ぎに突然急にバイトなんて…』

でもいきなり無理とも言えないので、どんなバイトなのか?また、いくらもらえるのか?を聞いてみた上でやばそうならやんわりと断ろう。

また、金額がやたら高額な場合も、何かヤバい事になりそうなので断ろう。

などと考えた上で、

「先輩、どんな仕事ですか?」

と聞いてみますと、意外な答えで、

「道路整備の仕事したことある?日当は八千円かな?」

それを聞いて安心したムックの相棒さんは、すぐ了解しました。

「じゃ、3時(15時)にお前の家の前に車で迎えに行くから」

といわれ、準備をして3時には自宅前に待機してました。

3時になり、家の前に車が止まり『この車だ!』と近づいてみると車の窓がゆっくり降り、中にはK林先輩ではなく褐色の肌をした外国人が乗っていて、

「K林サンノゥ、カワリノモノデス!」

もうぶったまげです!(※ちなみに漢字だと「ぶっ魂消です」と書きます)

「オクリマスノデ、ノッテクダサーイ!」

もう諦めて車に乗り、

「あのぉ、お名前聞いていいですか?」

と名前を聞いたら

「ボクノコトハ、『サトウ』ッテヨンデクダサーイ!」

『サトウ?佐藤なの?』

二度目のぶったまげです!

更に、送って行くっていう話ですが、もう2~3時間経ち、暗くなり、どんどん森の中に入って行きます。もう人なんか住んでないような所に向かって行きます。外国人と二人きりでです。

もう緊張マックスです。

そして森の中に広場のような広い空間があります。そこに入って車を止め降りました。
目的地に着いたのです。

その広場のようなところはアスファルトの舗装はされてない砂と小石の足場で工事現場のようなところで、木は切り倒されて、森の中にポツンとある広い空間で、日は暮れかけていましたが森の中ということでもう真っ暗で、自動販売機だけが光っていました。

そこでサトウさんは、3時間そこの穴に人が落ちないように見張っていてください。それが仕事だというのです。

暗くて良くわからなかったのですがその広場に直径10メートルくらいの大きな丸い深そうな穴があるのです。

もう突っ込みどころ満載です!

もちろん突っ込みます!

「今から3時間ですか?何時から何時までの間とかじゃなくて今からですか?
こんな中途半端な時間から3時間なんですか?」

「ソウデース」

「誰かと交代とかじゃないんですか?誰もいなそうですが?」

「ソーデース。イマカラデース」

「こんなとこ人いるんですか?誰が歩いてこの森の奥まで来て、この広場みつけて、さらにこの穴に落ちるんですか?俺は必要ですか?」

「デハ、3時間後ムカエニキマス」

と無視して行っちゃいました!

もう帰れません、車で何時間もかかって来た森のなかなのです。人もいなければ、車も通りません。穴は底が見えないので火を着けたタバコを投げ入れましたが底が見えません。深すぎるのです。

おそらくボーリングという機械で開けた穴ではとテイクさんは言っていました。
理由は穴は巨大でしたが綺麗な丸い円で非常に深いのでとのことで、温泉でも掘ろうとしていたのではと言っていました。

ムックの相棒さんは焦りまくりです。

どう考えてもまともではありません。

『昔の恨みがある連中がハメたか?』

と思ったそうです。警戒心全開です!

3時間の間、自販機のジュースとタバコで時間を潰し、野球のボールくらいの石をいくつも集め、もしもの事を考えてまず身を隠す茂みの中と車を止めた場所の二ヶ所に分けて置いておきます。

そして時間になったら茂みに隠れ、車が迎えに来たら、隠れたまま何人で迎えに来たか、確認して状況に応じて臨機応変に対応することにしました。

車はドアを開けると車内照明がつくのでそれで人数を確認して、自分を森で殺害しそうな感じなら闘って車を奪い、人数が多すぎたり、武器を持ってるようなら隠れたままやり過ごす作戦です。

石を二ヶ所に分けたのも迎えに来たふりをして車に近づいてから襲われた時の用に車を止めた所にも設置したのです。

凄いです。修羅場を何度も経験してるおじさんたちはすぐさま冷静にここまでの作戦をたてちゃうのです。

話は少しそれますが、テイクさんもムックの相棒さんも、本当に漫画やアニメに出てくるような人たちで凄く個性的で魅力的ですが、若いときは本当にバカなことばかりしています。

話は戻って、ムックの相棒さんはその作戦をたて茂み入り3時間待ち続けましたが、なんと迎えが来ないのです!

それはそれでどーするの?って感じのピンチです!

襲われる襲われないという緊張感から家に暫く帰れないという絶望感に変わりました!

やることないので携帯ばかりいじっていたのでもうエネルギー切れてます。

通信手段はありません!

絶望感で開き直って地べたに寝そべっていたら、30分ほどして車のエンジン音が聴こえました!

絶望感から一気にテンションあがって、作戦通りあわてて茂みに隠れました。

後は作戦通りです。

隠れながら車のドアが開くのを確認したら、サトウさんしかいません。

安心してサトウさんに駆け寄ると、市内まで送って行くって言うのです。

全ては取り越し苦労だったのです。

車に乗って帰る時に

「やっぱり、僕と交代する人はいないんですね?」

「イマセーン」

「じゃ、僕があそこにいる時間だけ人が落ちなきゃいいってことなんですね」

「ソーデス」

もう意味がわかりません。

でもムックの相棒さんももうめんどくさいし無事に帰れるので、仕事の事は何も聞かないことにしました。

暫くしてまだ森の中を走っているとき、何もないところで急に車を止めたのです!
もう心臓爆発しそうです!

でも自分をどうこうしようとする確証もないのでいきなり殴り飛ばせません!
サトウさんの出方を緊張しながら待っていたら

「そう言えば、バイト代払ってないですね?」

と急に凄んで言い出しました。

ポケットの中から裸のお札を何枚も取りだし、しわくちゃな千円札を数え始めました。

そしたら1枚足りない七千円しかなかったのです!

「すみません、ちゃんと数えてくれば良かったのにどうすれば」

ムックの相棒さんはもう早くこんな人達とは別れたかったので、

「いやいや、もうそれでいいですよ。」

と言っているのに、

「ダメです!ダメです!」

「いいですよ!いいですよ!」

「ダメです!ダメです!」

「いいですよ!いいですよ!」

なんてやっていたらサトウさんが

「ダメだっていってんだろ!」

と急にアッチの人かのように凄んで来たのです!

「こっちもね、仕事でやってんだから、そんなわけにはいかないんですよ!
働いてもらった対価は必ず払わないと」

もう本当に怖かったそうです!

絶対に働いた分の対価は払うと凄んで譲らないのです!
もう黙るしかありません!

そしてサトウさんは狭い車のなかで一生懸命になって何か対価になるものを探してます。

『こんな車に足りない千円分の対価になるものあるの?
いつまで車止めて探してんだよ!いらないよ。帰りたいよ。どうせねーし、あってもまともなもんじゃないんだろ』

と無言で1人考え事していました。

暫くすると

「ありました。すみません。これで赦して下さい」 

と狭く暗い車の中で何かを渡してきたのです!

『なんだよ』

と恐る恐る受け取ったものは…なんと…

“切手”でした!

何も考えずただ「あざーす」といって受け取り、7,000円と千円ちょっとの切手をもらってこの不思議な冒険を終え、無事に家族の待つ家に帰ったとの事です!