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六、五行大義の鈔本と刊本
鈔本には、元弘相伝本・高野山本・天文鈔本の三本と、その模写本、または転写本がある。
まず元弘相伝本の原本は、現在、穂久邇文庫に蔵され、五帖よりなる折本である。
その各巻の奥書には「元弘三年閏二月廿五日、相伝畢、智円」とあり、その題尾には「雪下頓覚坊常住」と記されている。
またその扉には「雪下相承院」「談峰寿命院」「青蓮王府」「久邇宮文庫」の印が存し、この書の伝来の経路を示している。
この元弘相伝本には、行間に、校比した一本の型をも伝えるだけでなく、表記・背記に極めて多くの注記がなされ、五行大義唯一の註釈書とも言える。
またこの表記・背記中にも、極めて多数の佚書・佚文が見える。
更にまた点本としても貴重な書である。
このヲコト点、または表記・背記を誰が施したかは明らかでないが、金沢文庫の無名氏の書簡中に、五行大義に点を施した記事があることは、注目すべきであろう。
この模写本が、神宮文庫(五巻よりなる巻子本、林崎文庫の印がある)宮内庁書陵部(五行大義序のみの巻子本、旧橋本家蔵)に蔵されている。
高野山本は、三宝院の旧蔵で、現在、霊宝館に蔵されている。
この書は、巻五のみの粘葉装の零本である。
その巻末には「宝治二年九月中旬検点之」と記され、更に「宝治二年ヨリ天保二年マデ五百九十七年、此本可珍重也」とある。
これから考えると、宝治二年(1248)以前の古鈔本であることは確かである。
いまこの書を、元弘本と校比すると、その異同は、巻五のみで実に四六六ヵ所にも及んでいる。
そこでこの書は、内藤博士が、既にこの書の影印本の識語で指摘されるように、多くの通行本の誤謬を訂正できる。
またこの高野山本にも、本文とは別に、朱または墨で「一本」「或本」の書入れが認められる。
この書は、仏教と五行大義との関係を示す好個の資料であろう。