こんにちはバルコアです。

 

5.仏教への影響

また鎌倉期における仏教への影響も注目しなければならない。

まず良忠(1196-1287)の選択伝弘決鈔では、「五常」の説明に五行大義が引かれ、沙門信瑞(1236-1280)の浄土三部経音義集には「人理」「魂神精誠」「日」「月」「精神痛苦」「星月」「愚人」の字句の解に用いられ、神於寺了尊の悉曇輪略図抄(1287)には「五音」「声音」「調声」「五経」「虚無」「三才」「十二運」「干支」の解説に、二十四条もの五行大義が用いられている。

また光宗の渓嵐拾葉集(1311-1364)には、山王神道と同じく、山王と猿との関係を説くのに用いられている。

この書の引用の五行大義中には「菅原在茂」の名も見え、年号勘文奏進者、菅原家所見のテキストとの関係も暗示している。

杲宝(1306-1364)の大日経疏演奥抄には「肘量分限」「干支名」「十二支生死」「日月交会蝕」「七政」「日月与日月曜同異分別」「五箇数表示」の項の説明に引かれる。

このほか当時の仏典中には、直接に五行大義を引用はしないが、それに依拠したと思われる五行説が、極めて多く見い出せる。

 

これらの仏典は、浄土、天台、真言及び悉曇学に関係する註釈書や蒐集書であり、これは高野山三宝院旧蔵の五行大義旧鈔本の存在と共に、仏教諸家と五行大義との密接な結び付きを示すものである。(これに就いては、拙稿「日本の仏典に引用された五行大義について」を参照されたい)