
かつて生活科、生活科学科という学科がどの農業高校にもありました。
その昔は農村生活科という名前が多かったらしく、
どんどん近代化してくる社会に対応できる農村婦人の育成を目指していました。
したがってほとんどが女子生徒。研究も盛んで、農産物の栽培というよりは
いかに農村生活を豊かにするか、また農産物を通じていかに地域を活性させるかという
生産者とは異なる家庭目線で一生懸命取り組んでいました。
現在も農業高校は食を扱いますが、どちらかといえば食品製造的視点。
コストや流通を大切にする商品としてではなく、あたたかで健康な生活のために
アプローチするほんわかした研究活動はとても好きでした。
さてこの名農農業クラブの機関誌「汗」の表紙の地模様がなんだかわかりますか。
これは南部裂織という農村伝承の織物。なんと太い横糸は着古した着物を裂いたもの。
したがって織上がると、しっかりと厚い布になります。
これによって耐久性や防水性が高まるため、野良着などに再利用されていました。
数十年も前になりますが、十和田市の南部裂織保存会の会長さんを
生徒たちとしばらくの間、取材させていただいたことがあります。
会長さんは織りながら「北国は気温が低く綿花が栽培できない。だから木綿糸一本でも貴重。
だから古くなった着物を裂いてリサイクルするんだ」など生徒たちにお話してくださいました。
面白かったのが、黒澤明監督から映画で使う派手な赤やオレンジ色の裂織製作を依頼された話。
この地域ではそんな派手な着物など着ないので、歴史的におかしいと断ったそうです。
しかし監督がこの裂織が出てくるのは夢の中。現実世界ではないとの説明を受け納得。
会長さんはもうお亡くなりになりましたが今でもその映画を見ると先生と裂織を思い出します。
その作品が「夢」。8つの小作のオムニバスですが最後のお話に笠智衆さんが身につけています。
「こんな夢を見た」で始まる不思議でおもしろい作品なので、ぜひご覧ください。
かつて名農をはじめ、この地域の農業高校の生活科学科などでは
このような伝統文化の継承活動もしていました。この裂織も名農研究班が製作したもの。
今の時代だからこそ、また見直されるべき視点のような気がします。