2・21週間文春 「中国からの宣戦布告」 麻生幾 より抜粋・編集


1月19日 午後5時頃

場所は日本と中国の排他的経済水域の中間線。

尖閣諸島から北へ約百数十キロの海域に中国フリゲート艦ジャンカイ1級がいた。海自哨戒用ヘリSH-60Kはこのフリゲート艦の監視任務に就いていた。



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※上の画像は去年中国監視船による侵犯のときのもの


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※海上自衛隊のSH-60K 哨戒用ヘリ



ヘリとフリゲート艦との距離は約3000メートル、
障害物のない洋上では目と鼻の先である。
突然、哨戒ヘリの内部に射撃管制レーダー照射を警告するブザーが響いた。
中国フリゲート艦が海自哨戒ヘリに射撃管制レーダーを照射したのだ。

「ロックオンされた!ミサイルが飛んでくる!」
哨戒ヘリは高度と速力を急減させ海面すれすれを飛行し艦の照準システムを狂わせロックオンを外そうと試みる。
中国フリゲート艦は、回避行動をとって海域から離脱する哨戒ヘリの背後へ10分以上も射撃管制レーダーを照射し続けた。


海自哨戒ヘリからの至急報を受けた母艦「おおなみ」は横須賀艦隊司令部へ報告。さらに東京・市ヶ谷の海上幕僚監部に速報を入れる。
「(管制射撃用)レーダー照射されし!」
「至急報」を受けた海自幹部は驚愕する。国連憲章では
「全ての加盟国はその国際関係において、武力による威嚇または武力の行使を領土保全または政治的独立に対するもの、また国際連合の目的と両立しないいかなる方法も慎まなければならない」とあるからだ。


振り返ると、海上自衛隊とソ連艦隊との35年にわたる監視任務の歴史はさらに過酷なものであったという。
ソ連の軍艦が射撃管制レーダーの照射に加え主砲を向けて来たのは1、2度ではない。ただ、それは”ネイビーの暗黙のルール”では危険度スレスレのブラック・ジョークでもあり、射撃管制レーダーは長くてもほんの数秒である。
というのも照射された側が冷静さを失い互いに事態をエスカレートさせてしまう恐れがあるためだ。
だからこそ中国海軍の10分以上の連続照射が”ネイビー暗黙のルール”を破る異常な行動に海自幹部たちは驚愕したのだ。


同日19日午後8時すぎ
小野寺五典防衛大臣にレーダー照射の報告がされた。

大臣は報告してきた防衛省幹部に対し
「事柄の性質上、重大な影響を与え得ることなので精査し慎重な分析をしてください」
とのみ伝えたという。広報課によれば大臣は公表することも考えたらしいが、
”微妙な外交問題ゆえ確実な証拠が必要”と主張する官僚の言葉を尊重したとみられる。
「100%確かな情報でなければならない」

しかし海自哨戒ヘリの警報が誤報である可能性はほとんどない。
なぜなら海自哨戒ヘリは様々な兵器の射撃管制レーダーの周波数をあらかじめ設定していたからだ。その事前の設定があったからこそ警報が鳴ったのだ。
「中国を追い詰めることもできたはず」海自幹部は政府側の弱腰にイラだった。
この弱腰が11日後に さらに大きな事態を生むことになる。


つづく