A子さんはパトカーに乗せられ警察署へ。すぐに逮捕手続きが行われました。

人定質問(氏名・住所等)・指紋採取と顔写真撮影・所持品検査・

弁解録取書の作成などです。

弁解録取は法制度上は被疑者に「弁解の機会を与える」というものですが、現実には無いものと同じです。


A子 「お母さんと話をさせてください」

刑事 「取調べがまだ終わってない、ダメだ!」


法制度上は逮捕後の上記の手続きが終われば(家族・友人と)接見できるはずですが、現実には皆無です

※このように警察が取り調べの理由で接見を妨げている行為は国際人権委員でも問題となっていますが 警察ならびに検察は無視をしています。


手続きが終わると留置場で、身柄を拘束されます。

留置場の目的は容疑者の逃亡と証拠隠滅の防止が目的の施設でたいてい警察署の建物内にあります。

広さは4畳半ほどで、水洗トイレがありますが壁や仕切りはありません。

自殺防止の為です

この時点で彼女は「A子さん」ではありません「1198番」(例)と呼ばれます。

毎日のように刑事による取調べが行われました。 

腰に紐をかけられ、端はパイプ椅子にくくりつけられ自由はありません。

生まれて初めての取調べに緊張で喉が渇きますが一杯の水も出ません。


「水を飲ませてください」


刑事は舌打ちをして面倒くさそうに湯のみに入った水を持ってきました。

ほんの少量です。

A子さんは少しずつ水を飲みます。そうしないと”次”がないのです。

悔しさ、悲しさ、不安で涙がこぼれます。

刑事は調書作成のため、事件の動機や経緯を質問してきます。

しかしA子さんが少しでも感情に訴えると

「 そんなことは聞いてねぇんだよ!」

と机を叩き、威圧してきます。 机の下で足を蹴られたこともありました。

取調べ室は小さく、そしてA子さんと刑事の2人きりです。 

誰も見ていないのです。


3日ほど過ぎて 当直弁護士、そして母親とも接見することが許されました。

※ここでの会話は諸事情により割愛させてください。


調書はすべてワープロで作成します。ある程度、書式は出来あがっていて

作成自体に時間はかかっていません。

にもかかわらずA子さんが留置場で2週間近く勾留されたのは

実況見分や被害者である男性のケガの診断結果に時間がかかったこと

そして検察局での取調べもあったからです。


「被害者は全治1ヶ月の加療を要す」の診断書により、起訴が確定しました。

例えば会社の同僚同士で喧嘩をしたとして逮捕されても、ケガをした相手が

「 訴えないよ 」といえば不起訴となります。

しかし今回のように全治1ヶ月を超えるとなれば自動的に起訴が確定されてしまうのです。

A子さんはすぐに留置場から法務省管轄の拘置所に移送されることになりました。彼女は裁判で刑が確定する間、拘置所で過ごすのです。


出発の日、留置されている人達がA子さんに声をかけてきます。

眠れない夜に、小さな声で、壁越しに励ましてくれた人達でした。


「元気だしなよ!」 「負けちゃだめだよ!」 「元気でね!」


「・・・みなさん、ありがとう」 


A子さんの胸に、あたたかいものがこみ上げてきます。


彼女は両手に手錠をかけられ腰を紐で縛られたまま刑事、警察官らに深く頭を下げて護送車に乗ります。

拘置所に向う護送車のなかで若い警官が話しかけてきました。


「 実はね・・・」


若い警官の話はこうでした。

・彼もまた恋人に裏切られたつらい経験があること。

・捜査班の班長が 「彼女こそ被害者では?」 と語っていたこと

・取調べを受けた被害者の男性は人間的に○○であったこと


彼女は黙ってそれを聞いていました。もう涙を流す気力すらなかったのです。

季節は冬、 もうすぐA子さんの誕生日でした。