マルティナ・フランカでのイトリア渓谷音楽祭2012年の公演
ハッセ「アルタセルセ」がついに!発売されました。
それも嬉しい日本語字幕付き!クラッカー
ヴィンチの「アルタセルセ」公演と同年の夏の公演です。



歴史的には
ヴィンチの「アルタセルセ」が1730年2月4日にローマで第1カストラート役のアルバーチェをカレスティーニで初演され、その後すぐにメタスタージオの台本にジョヴァンニ・ボルドーニが手を加え、ハッセが曲をつけ、同年ヴェニスに於いて第1カストラート役ファリネッリによって初演されました。

今回のDVDはその1730年のヴェニス版であり、映画「ファリネッリ」で使われたSon qual nave che agitataは収録されておりません。

翻って2012年
フランコ・ファジョーリ
イタリア、マルティナ・フランカ(7月)でハッセの
フランス、ナンシーでヴィンチの(11月)でヴィンチの
「アルタセルセ」のアルバーチェ役を歌いました。

メタスタージオ研究家の方によると
「アルタセルセ」は第2幕の裁判シーンが見どころとの事なのですが
ヴィンチの「アルタセルセ」ではあまりそれを感じる事が出来ませんでしたが、
今回のハッセの「アルタセルセ」ではそれを痛感しました。

それは日本語の字幕が付いていたから、なのかもしれませんが、
演出や曲、レチタティーボのどこをカットしたのか逆に残したのかという部分も
大きいのではないかと思いました。

さて、その裁判シーン
特にアルタセルセ、アルタバーノ、アルバーチェの3人が気の毒で見ていられない程なのです。そしてそこで歌われる心情の吐露。

カストラートの人気というのは今まで音域や技巧によって人気があったのだろうと思っていたのですが、こういったドラマによって心情的にも聴衆を惹き付けた部分が大きかったのではないか?と。
メタスタージオの脚本家としての力量(まるでオペラ脚本家版近松門左衛門のよう)を考えてみると、逆にメタスタージオの台本を使用していないヘンデルのオペラは、曲は良くても、そのあたりのドラマ性に関しては弱いのかもしれません。

兎に角日本語字幕が付いているというのは大変貴重ですし、
当時のオペラを知る上で欠かせない「アルタセルセ」というオペラを知っていただくためにも、そして私自身これを見て、イタリアバロックオペラやカストラートに対する認識が新たになった事もあり、是非見ていただきたいDVDだと思いました。

~裁判シーンに関して簡単なストーリーと共に~
アルバーチェの父アルタバーノが息子への侮辱を晴らすため、又王座を狙ってペルシャの王セルセを暗殺する。その際使用した刀を息子に預けたため、アルバーチェが犯人と疑われ逮捕される。アルバーチェは子としての義務として真犯人が父親だとは口を割らず無実だとだけ主張している。王子アルタセルセは裁かなければならない立場でありながら親友であるアルバーチェを裁く事ができず、「自分を欺いて良いから」アルバーチェを裁く事をアルタバーノに委ねる。アルタバーノは正義を示さないと示しがつかないと息子に死刑を命じる。
ここでアルバーチェの恋人であり、亡き王の娘であるマンダーネから
「私はセルセの娘としてアルバーチェに死刑を求めたが、あなたアルバーチェは父としての義務を果たすべき(息子を救うべき)だった」と言われ崩折れるアルタバーノ。

この一連のシーンで
アルバーチェはPer questo dolce amplesso
アルタバーノはPallido il sole をそれぞれ歌います。

アルバーチェのアリアは死刑を受け入れて父に別れを告げるもの。父との甘い抱擁、最後の別れ、愛する人を頼むと歌い、悲しみを誘います。

アルタバーノのアリアは一種の狂乱のアリア。
レチタティーボ・ア・コンパニャートで息子の処刑シーンの幻覚を、そしてアリアでは自分の犯した罪のために息子が死刑になるという後悔で目の前が真っ暗という情景を歌っています。

その後3幕でアルタセルセがアルバーチェを救いに来るシーンでも、アルバーチェは逃げるべきかどうか?自分が逃げたら父の運命はどうなる?と逡巡するところが、涙を誘います。