そしてようやくフランコ・ファジョーリの歌、についてですが・・・

CDやラジオで聴いていたのとは大分印象が違いました。


うーーん、なんというか「ラーメンを注文したのに、蕎麦が出てきた」というか・・

思ったほど熱い!とか男っぽい!という感じではありませんでした。

役柄もあるのかもしれませんし、どうなのかな~~??


でも、だからといって草食系という訳ではなく

無駄な贅肉の無い、しかし必要以上に余計な筋肉もついていない、引き締まった 歌い口でした。


それから兎に角歌が完璧!ライブ録音を聴いていても演技しながら完成度の高い歌を歌うな・・

とは感じていましたが、生だと本当に完璧で、一瞬たりとも危なっかしい所が無い

声がぶら下がる事も、高音がきつそうだと感じる事も、叫ぶ事も無く、

音程もふらつかないし、アジリタにも必死さを感じさせない。

後は上から下まで声が均質。


評に完璧なテクニックとかもの凄く正確に歌う(←プロの歌手に向かって言う言葉?)とか

わざわざ書かれる意味が今迄良く分からず、

コロラトゥーラが上手だとかそういう意味かな?と思っていたのですが、

聴いてみて本当に最初から最後まで一々完璧なので納得しました。

いや、本当にバチっと決まっていて0.1ミリも狂いが無い・・という印象。


それからCDで気になるヴィブラートは全く気になりませんでした。

「そういえば、ヴィブラートは?」と注意して聴いてみたらナチュラルなものが

少しあったと気が付いた程度。

それよりもヴィブラートどころか密度の高い、まっすぐな声

コロラトゥーラのテクニック以上に度肝を抜かれた、という感じ。


声量は今回はバリトンの人は声が大きいと思ったけれど(そしてテノールの人は小さかった)

他は皆同じくらいの声量で、1幕目は少し声量が無いかな?(歌手全員・・)と思いましたが、

Scherza infidaなんかでは会場中を満たすような声だったので、

このくらいの規模の会場ならば、最後列までキチンと届いていそうな感じがしました。

あまり、響くホールでは無さそうですし、

会場の音響によっても印象は違うかもしれないので、ちょっと分かりませんが・・


アリア別で言うと、


Con l'ali di costanza は軽々と、易々と歌いのけてしまって若干拍子抜け・・

はっきりいって上手すぎて面白くない。

技巧的なアリアじゃなくて普通のアリアにしか聴こえない・・ツマンナイ。


演出上は王にジネブラとの結婚を認めてもらい喜んでいる所で

ガーデニング用の服装から、シルクハット、ステッキ、コートに着替えながら、

というか着替えさせてもらいながら

又、ステッキなどを使って時折踊りながら歌っており、結構、踊りが上手でした。

ステッキの持ち手にキスしたりしてましたが、意外とそんな動作もさまになってました。


しかし Scherza infida は凄かった!美しいとか、感動したとかではなく、凄い!!

  (あ、涙も出そうになりましたけれども・・・)

2幕目になって調子が上がってきたのかそれとも技巧系の曲でない為、朗々と歌える故か

声量もあり、また、力強いピアニッシモも印象的。

何よりも演奏が止まるのではないか・・と思うほどテンポを落としたオケに対して、

まるで針の穴を通すような、ブレの無い真っ直ぐな力強い声、

それもとても密度の濃い声と、長い息。

そしてそれをずっーーーと保って歌い続けていました。

数秒の余韻を楽しんだ後、拍手が鳴り止まなかったです

指揮者も観念して、途中で腰掛けてました。


この曲は彼ならば、もっと泣きを入れたりして歌うもんだとばかり思ってましたが

こんな直球勝負で来るとは・・

まるでバレエとかのような、滑らかで全くブレが無いゆーーーっくりとした動作の

その瞬間瞬間に目を奪われずにはいられない・・ような。

そういう密度の濃さというか集中力。 (なんか微分積分的な・・?)


しかし、こういう歌を歌われてしまうと続いて歌う歌手はちょっときついですね・・

今回も第2幕の最後のジネブラの狂乱の場でのアリアが大味に聴こえてしまいましたが、

まだ、その間にアリアが沢山挟まっていた分マシで、

マルティナ・フランカ音楽祭での「ロデリンダ」での

ファジョーリの歌う Dove sei? amato bene  の直後のソニア・ガナッシのアリアで

指揮者が間を空けているのにも関わらず、誰一人拍手をする人がいなかったのも

何となく分かるような・・とジネブラのアリアを聴きながら思ってしまった・・。


それから Cieca notte, infidi sguardi, もScherza, infida 同様素晴らしかった!

しかし、やはり曲の良さも含めてScherza infida に軍配は上がりますね。


最後のアリア Dopo notte も Con l'ali di costanza と同様に易々と歌っており、

もう少し大変そうに歌わないと、難しい歌に聴こえないよ・・・と思っておりましたが、

ダ・カーポで沢山仕掛けてくれました。

ちょっと色んな意味で情報量が多すぎて消化しきれておりませんが、

周囲では、ダ・カーポ部分では「呆れた!」とばかりに笑いながら首を振っている人や、

   (歌の最中に声を出して笑わないで欲しい・・)

仕掛ける度にワ!ワ!と反応していたりしている人などがいました。

   (だから、歌の最中に声を出さないで欲しい・・・笑)

そうそう、この作品でのアリオダンテ役での最高音、二点イを楽々と、

それよりも高い音も、楽々と出して聴かせてくれましたが、

このソプラノ歌手のアクートのような耳にビリビリと突き刺さるアクート

長伸ばししている所を聴いてみたいです。

それから・・今回音が高かった為か殆ど聴く事の出来なかった低音も。


このアリアも鳴り止まない拍手に加えbis!の声がかかっておりましたが、

指揮者はサッサと先に進みたかったようでサクサク行ってしまいました。

       ああっ・・私も加勢すれば良かった・・・(泣)

       出待ちも出来なかったし、ブラボーもかけられない小心者・・

そういえば、この曲でも甲冑を脱ぎながら歌っていました。

何故か技巧系の曲は着替えながら歌う演出・・・

そばで王様が踊ってました。





という事で、大変歌が上手かった!!

しかし私はラーメンが食べたかったのよ~!!という気持ちも心のどこかにはあって・・

いまひとつ心の整理がつかない感じではあります。


 ↑譬えが分かりにくいかも・・ですが(笑)

  オペラファンの間では彼をsensationalと言う人とgreatと言う人がいて、

  私はどちらかと言うとsensationalを期待していたのですが、実際聴いてみたら

  greatだな・・・と。いや・・それも素晴らしい事ですし、そもそも、

  実際の言葉のニュアンスが良く分からないんですけれどもね(笑)

  ・・・でも、あのgreatな scherza infida は、やはりsensationalなような気も・・

          ↑かなり混乱気味?

 

それから・・やっぱり彼はカールスルーエでは人気があるようで、

幕間や終演後も彼の事を話している人たちをチラホラ見かけましたし、

多分私の周囲に座っていた人たちの反応をみると

その・・ワアワアうるさい人たちも含めて、結構ファンが多かったように見受けられました。


記念にカーテンコールを撮ってきました。

iphoneなのでズームできませんし、なんか照明で顔がとんじゃってて

全く表情が見えないのですが・・・




で、改めて去年の評などを見てみると、

いとも簡単に歌う・・とか

控えめに言っても驚異的なScherza infida と書いてあったりしました。

本当にその通り!