現在 紀伊国屋サザンシアターで上演中の第105回こまつ座公演「兄おとうと」


2003年の初演から回を重ねて4回目の上演となったこの作品、5年ぶりの再会を心待ちにしていました。

(5年前の観劇記はコチラです→


今回最初の観劇となった7月の兵庫芸術文化センター。

再び巡り合えた懐かしさ、新しい劇場(剣さんと縁の深いこの劇場での公演にも感慨深いものがありました)での新鮮な感覚・・色んな思いがありましたが、一番強く感じたのは・・井上作品に残された言葉の力、言葉の重さでした。

5年前は意識していなかった「もう2度と聞くことができない新しい言葉」。


そのことをさらに身を持って実感したのが8/17のサザンシアターでの初日でした。


どの舞台も初日は独特の空気がありますが、この日の劇場はこまつ座と縁の深い紀伊国屋の劇場。そしていつものサザンシアターとはどこか違うものがありました。


緊張と集中、そして演じる人たちの内側から感じられる情熱。

ひとりひとりが井上さんの言葉を大事に大事に伝えようとしている姿に、客席の片隅に井上さんの姿が見えてくるような・・えもいわれぬ空気を感じ、その言葉ひとつひとつに心揺さぶられ、何度も涙が出そうに。。

演じ手の体温を感じながらもどこか透明感があって、上手く言えないのですが・・演じる魂の純度がより高くなっているような・・劇場に神様がいるようなそんな不思議な感覚がありました。


今回のパンフレットにある剣さんと高橋さんの対談で(兄おとうと、姉いもうと、5役のお2人の対談はどれも読みごたえがあります!)剣さんが「もう、井上先生の新しい言葉はいただけないから、余計、書かれている言葉と真剣に向き合いたい」と語っていますが、キャストの皆さんからそのことがひしひしと伝わってくる思いがしました。


初日の翌日、そして24日とキャストの方全員によるトークショー(24日は演出の鵜山さんとピアノの朴さんも参加)があり、初演時の苦労話や井上さんの言葉など貴重なエピソードを聞くことができました。

そのときのことを思いだしつつ、印象に残ったことをちょっとだけ・・(と言いながら長くなるかもしれません(^^ゞ)


初演の原稿があがったのは5日前(予定初日より2日遅れて開幕)で、「そのときは歌も踊りも全て剣さんにお世話になった」と話す辻さんと「誰よりも入念にウォーミングアップしている辻さんは素晴らしい、ついていきます」と話す剣さんは民の先頭にたつ吉野作造と支える妻玉乃のように息もピッタリ。

5年の時を経て劇中でもますます本物の夫婦のような自然体のお芝居が心地よく感じます。


5役を演じる小島さんが印象に残っている井上さんの言葉は、初演の通し稽古が終わった後の「小さな宝石のようなお芝居ができましたね」。ああ、なんて素敵な言葉なんだろうと思いました。今回も観れば観るほどその言葉を実感します。心にズシンと響く言葉を柔らかなユーモアと歌で包んで、品があって。


「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに、まじめなことをゆかいに、ゆかいなことをいっそうゆかいに」は井上さんが残した有名な言葉ですが、舞台を観ているとこの言葉がお芝居全体を包んでいるのを感じます。はっとすること、忘れたくないことが自然と心に残っていくのは、押しつけがましくない、ユーモアにくるまれた投げかけだからなのかなとも。


役作りについての話で、辻さんと5役担当の小島さんご両人の「井上さんの台詞をそのまま喋ればその人物に自然となれる」との言葉にも作家と演じ手の強い信頼関係を感じました。

辻さんが「いい台詞ばかりでしょ」とちょっと自慢げ(笑)に話す姿に、そう思える台詞を喋れることは演じる人にとって最高の幸せなんだろうなあと。


現実主義で兄作造とは又違った人間臭い人物弟信次。こっけいさとおかしさ、どこか憎めない部分で笑わせてくれる大鷹さん、本当にお上手だなと毎回感心するのですが、井上作品はこれが初めてだったそうで、「こまつ座に出ればすぐに賞をとれますよと井上さんに言われたのにいまだにとってません(笑)」と笑いを取っていました(笑)「兄おとうと」には欠かせないおひとり、キャスティングしてくださって本当によかった!前回から参加した高橋さんについて、前回はあまり余裕がなかったかもしれないけれど、今回は高橋さんらしい君代になっていると思うので嬉しいという言葉に、役者さん同士の気概のようなものを感じました。


トークにはピアノ伴奏で参加の朴さん。音楽も台詞の一部でもあるこの舞台、キャストの呼吸を感じながら奏でられる音楽はとても心地よく、ピアノの朴さんもキャストのひとりでもあることを感じます。

5役担当の宮本さんも、地方は劇場によって大きさが違うので、はけるときの距離や動きも全部見てくれている演奏に助けられていると話していました。


辻さんの言葉によれば、こまつ座の音楽は「ドラマwithミュージック」。

ミュージカルと違い、あくまで台詞がメインであり、1曲で完成されるミュージカルとは全然違うもので、回を重ねることにだんだんとなぜここでこの音楽が入るのか、井上さんがなぜこの音楽を使ったのかがわかるような気がしてきたと話す剣さんの言葉も心に残りました。

演出の鵜山さんも、「なぜここは台詞ではなくて歌なのか」を追求していきたいと。

その答えを感じるためにも、さらに観劇を重ねたいと思ってしまいました(もうすぐ終わってしまいますが・・)


原稿が間に合わなかった初演、場面が増えた再演、新メンバー(高橋さん、宮本さん)が参加した前回の公演を経て、今回が全員で同じくスタートできた4回目とのこと。

より密になったアンサンブルの魅力、不在だからこそ実感する井上さんの存在。

観れば観るほど貴重な舞台であることを感じます。


長い地方公演を経て、こまつ座縁の劇場サザンシアターでの舞台は、ある種この作品の集大成のようなものを感じました。


公演ものこりわずかとなってしまいましたが、もしこの記事にひょんなことからでもうっかりでも遭遇した方がいらっしゃったら、是非貴重な舞台を体感していただけたら・・と思います。

31日まで上演中です♪


さらに個人的な?感想も続きます・・・(^^ゞ