児童文学の翻訳者として出会った石井さんですが、編集者として「岩波少年文庫」の創設に携わったことでも知られ、自分で本が読めるようになってからは、本当にこの少年文庫のお世話になりました。


中でも最も好きだったのがこのシリーズ。

ドリトル先生アフリカゆき (ドリトル先生物語全集 (1))/ロフティング
¥1,680
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こちらは文庫ではなくハードカバーですが(^^ゞ 小学生になって初めて買ってもらった本がこの「ドリトル先生アフリカゆき」でした。


これは石井桃子さんが下訳をしたものに、井伏鱒二さんが訳をつけたものです。

原作の面白さもさることながら、全編にちりばめられた井伏さんのユーモラスな文章。(とても平易な言葉で書いてあるのですが、今読むとまさに大人の文章だなと感じます)

毎年誕生日とクリスマスに1冊ずつ買ってもらい全12巻がそろったときの嬉しかったこと!

これだけ夢中になって読んだ本はありませんでした。


このドリトル先生も、もとはといえば石井さんが戦前に勤めていた文芸春秋社を辞めた退職金で作った出版社から出された本だそうで、戦時下でこどもたちが楽しめる本をと選んだ1冊だったとか。

この出版社は残念ながらつぶれてしまったものの、戦後に岩波少年文庫が創設されたときに、石井さんが再度井伏さんに訳をお願いしてできあがったものだそうです。

長い時間と情熱をかけてこの世に出てきたドリトル先生。出会えて本当に幸せでした。



懐かしい記憶に包まれながら会場を歩くと、「ノンちゃん雲に乗る」などの著作や、翻訳を手がけられた「ピーター・ラビット」シリーズや「くまのプーさん」などなど・・誰もが知っている、皆に愛されているあの本もこの本も皆石井さんの手を通して届いたものであること、そしてその偉大な功績に限りない感謝の気持がわきあがってくるのを感じました。


何度も何度も手が入れられた原稿用紙。ダミーの絵本を作って、そこに翻訳した言葉を載せてみたり、文章を切り貼りして、絵とイメージが合うか試してみたり。原作者との度々のやりとりはもちろん、そこに残された仕事の数々から「いかにこの作品のよさ・面白さをこどもに伝えることができるか」という深く強い情熱」が伝わってきました。

90歳を過ぎてから翻訳にとりかかった「くまのプーさん」の原作者A.A.ミルンの自伝「今からでは遅すぎる」のためにとりよせた原書。自らの意思で100歳近くなってから全面改訳した50年前の翻訳「百枚のドレス」。ボロボロになった広辞苑。晩年に使っていた電子辞書。「生涯の仕事」とはこういうことをいうのだなあと思いました。


石井さんの百歳のお誕生日に全国から寄せられたお祝いへの直筆のお礼の手紙が展示されていました。


いつもと変わらない日としてその誕生日を迎えたつもりだったという石井さんに寄せられたお祝いに、このように書かれていました。

「ありがとう みなさま。みなさまのお言葉、そのはしばしまで満ちたお気持は、熱いしずくとなって、いまも私をあたためてくださっています。私の仕事がこれほどまで多くの方がたに寄りそひ、あちこちで息づいていると知って、私がどんなに力づけられたことか。ただただ感謝するばかりです。」


百歳の日に綴られた石井さんのこの言葉に心の奥が熱くなり、展示ガラスが曇って見えなくなりそうでした。


~その3~へ続きます☆