土曜、にライブを見に行った。
この、地下にあるエライちっさい古い箱は、2カ月ぶり。
こんなとこに店が?っていう狭く緩やかでない階段に
一歩足を下ろした時から始まるワクワク感。
そして、狭い扉を開ければ、そこは異空間。
だーから、地下の狭いバーって、特別に好きなんだよなあ。
これが、1階や2階なら全然違う。
昔通ってたバーにちょっと似てる。
席もちょっとしかなくて、15人も入ればキュウキュウでっしゃろ。
お世辞にもきれいとは言えない、ヤニだらけの店で、消防法とか大丈夫かい?
って所なんだけど、それが、いい味を出してんだなあ。
前に行った時は壁を何かの虫が沢山歩いていたし...(笑)
今日は敢えて一人で来てみた。
目当ては本田珠也さま。
ドラムを叩かないでいても、独特のオーラが出ていてとてもカッコええ。
ドラム真横の特等席を確保。
次々客が来て、17,8人になったらもうホントに通路とか歩けない感じ。
その狭さがいいのよねえ。
演奏をこんな間近に見れるってワクワクするし、音波を肌に直接感じますわ。
私の隣に座った老夫婦、珠也さんに声をかけられている。
「何か注文せんと。」と、何と身内的な話しかけ方。返事する方も「おぅ」
うーん、ご両親??
だとしたら、珠也様のお父様は、これまた高名なジャズ奏者の筈よっ??
うーん、お顔は全然似て見えないけど、白髪髭がダンディなオジサマではないの。
ひょっとして?
ところで、こないだ来た時すんごくいい音がかかっていて、
店主に聞いたら、そのcdを勧められ、すぐアマゾンで買ったのだったっけ。
その事を告げると、彼もとってもそのcdがお気に入りなのだと嬉しそうに言う。
こういうのがまた、醍醐味よね。
いい音×センスいいバーに来て、今かかってるのナニ?と尋ねて、そして手に入れる。
お気に入りの一枚になる。
cdだと、昔みたいにレコードほどの感動はないものの、
勧めてくれた店の人の顔、
その時の短い会話、仄暗い照明、
そういう記憶と一体になって、その音楽は鳴る。
いつでも、それを聴くだけで、その時間と場所へ気持が帰っていける。
そして今宵のお酒はウイスキー。音楽聴くにはウイスキーがいいよね。
バーボンは飲めないので、スコッチを。
店主に勧められて、初めて見る「ancient clan」というのをストレートで頂く。
香りを嗅いでから、ほんのひとくち口に含む。うーん、美味しいではないの!
そしてゆっくり飲み込むと、食道を通って、胃にじわーーとしみこむ感じが、心地よい。
さて、ようやくピアノの方と、サックス、ベースの方、が揃ったところで、
って、あら...もしかして今日ってスタンダードジャズなの??
と、少しテンション落ちる。
嫌いじゃないけど、珠也様は譜面通りの曲では物足りない。即興が聴きたいわー。
そして案の定、好きだって人には申し訳ないけど、退屈なスタンダードナンバーが延々と...。
しかし、それでも、やり始めて10分くらい経つと、サックスの女性も乗ってきて、
ピアノを叩く彼の方も揺れてきて、"グルーブ"が出てきた。
こういう瞬間が、グループライフ゛の妙よね。
みんなの息が合って、乗ってくる瞬間があるのよねえ。
それを、聴衆側も一緒に受け取る。
これは何とも説明しがたい現象ですな。
まあしかし、スタンダードジャズにしたって珠也様のパワフルすぎる叩きっぷりには
毎度心臓を鷲掴みされる。
それにつれて、何となくエドワード・ノートン似のピアノマンも、段々力強い弾きっぷりになっていく。
いいなーーあーんな弾けたら気持えーだろうに。
私は、10年習ってやめてしまった。
「エリーゼの為」にがスラスラ弾ける様になった位で、
ポップスやジャズピアノを弾きたい、とキョーレツに思ってしまって、
クラシックなんかつまんない!!とか思って練習しなくなっちゃって、
ユーミンとかリチャードクレイダーマンとかビリージョエルとか、
そんなんばっか弾く様になった。
でも、どうしてもクリアできないフレーズとかが出てきて、技術的に限界を感じていた。
後から思うとね、やっぱもっともっとクラシック弾き詰めて、基礎で腕を磨かないと、
とてもじゃないけどジャズなんか弾けやしないレベルなんだよね。
いつも、ピアノ弾いてんの見ると、思うもんです。
今夜は、アップライトの前板を外して、音が響き渡るようにしてある。
そうじゃないとドラムの爆音に負けるよね。
板がないから内部のハンマーヘッドがポンポンと撃たれるのが見えて楽しい。
懐かしい。
殆ど弾かなくなって、遂にピアノを引取ってもらった日の事を思う。
少し切ないけど、後悔という程でもない。
自分には、そこまでの事で、それ以上の才能がなかったという事なのだろう。
まあ、絶対音感が出来て、譜面が読めて、PCブラインドタッチが苦も無く出来るというだけで、ピアノをやっていた恩恵は残った。それでいいや。
などと考えながら、それこそ目をつぶってバラバラと弾きまくっている
彼の巧みな指さばきに目を見張る
ベースの低音が、イマイチほかの楽器音に隠れて聴こえずらいけれど、
彼も目をつむっている。
勿論珠也さんも。ピアノやサックスやベースはわかる。けど、ドラムでブラインドってスゲー、と毎回思う。
指を動かすなら目をつむっては比較的簡単だけど、
バチを持ってそれぞれ体から離れた所にある、ハイハットだのスネアだのクラッシュだの、目を閉じたまま自在に叩き分けるのって凄いよ。
しかも両腕両脚使ってさー。ホント凄いよドラマーって。
休憩の間、さっきの老夫婦に勇気を出して、ご両親ですかと聞いてみる。
違った....(-_-;) すんません。
「同級生の息子でね。小っちゃい時から知ってんだよ。
まあ、息子みたいなもんだわな」
「そうよねえ、こんな年寄りが来たから親かと思うわよねえ」
と奥様が笑う。奥さんは脚が悪いらしく杖をついている。
何か、いいなあ。私も、こんな老後がいいなあ。
ていうか、こんな旦那さん、いいなあ。
歳を取ってしまい、杖をついていても、旧友の息子のライブに土曜夜、夫婦連れだって出かけるなんて。
休憩が終りいよいよ第2部。
それぞれの楽器のソロシーンもちゃんとあり、
スタンダードジャズながらちょっとは「暴れ」感があって良かった。
それに珠也様は喋っても面白い。
「次は○○(作曲家)のナンバーをやります」
とエドワードノートン似が言うと、
カウンターに座ってた男性が
「○○っ?!!おおっ!!」と手を叩く。そしたら珠也様がすかさず
「知ってんのかぁ?!!」と怒涛のツッコミ。ドッと笑いが起きる。
「次の曲は"過去の事は水に流そう"という曲です」と言った時には、
真ん前に座っていた御年配の男性が、なぜかそこでウケて拍手をして、これがまた全員を笑わせた。
うんうん、流しちゃえ流しちゃえ
うーん、この地下の、薄暗い小さなライブバー、このクローズドな箱だから
この親密さが出るんだねえきっと。来て良かったあ。
さて、終盤に向い、珠也様のますます炸裂するバチさばきにいつも通り釘付け、
最後の一撃はシンバルのスタンドがずれたほどの渾身の強打で、
衝撃波が飛んできたほど。
彼のドラムは、聴き終るとモヤモヤが晴れて本当にスッキリする。
きっつーーいマッサージ受けた後みたいに。他のドラマーとは全然違う。
他にももう二人、好きなドラマーがいるけど、彼らは彼らでまた違う味があるし、
やっぱり楽器ってその人のエネルギーが出るもんだ。
正直この日の、珠也様以外の方からは
そこまで濃い「汁」が出ていなかったから印象に残らなかったけど,珠也様は裏切らない。
即興だろうが、スタンダードだろうが、どんな曲でも、珠也様色。
このバーは結構「投げ銭」方式が多くてこの日も然り。
そんなんで店やっていけてるんでしょうか。と少々心配に。
演奏者の方々も、もはやほとんど雀の涙みたいなギャラでしょうに。
そこがまた、商業ベースでやってる事ではない、
純粋に音楽にまみれていたい奏者たちなのよね。
そういう人たちの音を聴きに行くのは、本当に幸せ。
今宵も力を絞り切った珠也様は、カウンターの上の鼠色の大きい缶を
高々と片手で持ち上げ、
「さあさ、皆さん今日は投げ銭ですよー。
お願いしますねー。クリスマス気分で!!」
店内にまた笑いが起こる。もう最高。
ひとりライブは気ままで良いけれど、帰り道はやっぱり淋しいな。
と思いつつ、ちょっと名残惜しく下北を後にした。良い週末でした。