フェラ・アニクラポ・クティの歌詞は、ナイジェリアン・ピジン Nigerian Pidginの使用に特徴があります。

フェラ・クティは若い頃に英国留学もしているし、もともと幼い頃から厳格な教師のお父さんに英語をたたき込まれていたと語っている。欧米でのインタビューを見ると、ピジンではない英語で答えています。

つまり、フェラの母語であるヨルバ人以外のナイジェリア人にもメッセージを伝えるため、意図的に庶民の共通語として機能するピジンを使っているようです。
それは汎アフリカ主義の表現であると同時に、お父さんに受けた教育に象徴される西洋中心主義への反発でもあるのでしょう。

さて、歌詞の内容はだいたい英語として理解できるけれど、それでもナイジェリアン・ピジン特有の言い回しがわかりにくいところもあるので、ちょっと勉強してみました。

レゲエとかで聴くジャマイカのパトワ語にちょっと似てると思った。
今手元にないけど、『パトワ語ハンドブック―ジャマイカ語を話そう! 』(アップリンク,1998)という本がある。


参考にしたサイト
☆naija lingo 
http://naijalingo.com/searchresults.php
☆Babawilly's Dictionary of Pidgin English Words and Phrases
http://www.ngex.com/personalities/babawilly/dictionary/default.htm
☆Language Varieties/Naija
http://www.hawaii.edu/satocenter/langnet/definitions/naija.html

最初の例は『Zombie ゾンビ』の歌詞から。
Zombie no go go , unless you tell am to go
「ゾンビは行かない、お前が彼に行くように言わなければ」
動詞に人称と数の一致がない。
動詞の活用はなく、時制の表現は、時制マーカー(dey, donなど)を動詞に前置するようです。
否定の助動詞はスペイン語みたいに"no"だけ。
go goと繰り返しているのはリズムに乗せるためだと思う。
☆am himまたはherの意味

『ゾンビ』の有名なフレーズ、
Joro, jara, joro
joro, jara, joroはピジンではなく、ナイジェリアのオンライン新聞 "The Citizen" によると、ナイジェリアのエグバ人(Egba)のチャントだそうです。エグバ人はヨルバ人の一氏族で、フェラの生まれたオグン州アベオクタに古くから住んでいた人々。フェラもエグバの人。
http://thecitizenng.com/other-news/fela-the-iconoclast-15-years-after/

『ゾンビ』の
zombie wey na one way
☆wey who,that 関係代名詞。
☆na "it is"の意味。
「Joro, jara,joro ゾンビは一方通行の奴ら」という意味だと思います。

スゴいタイトルの『You Gimme Shit I Give You Shit』から
Wetin him get?
☆wetinはwhat is
☆getはhave/has、持っている
☆him 主格heとして使われている
彼は何を持っているのか?

『Yellow Fever』から
Malaria fever nko? 「マラリア熱とは、何だ?」
☆nkoはヨルバ語。意味はwhat about~?
よくフェラは「ンコ~!」ってシャウトしてます。「なぜなんだ!」と。

Na him dey bring the matter he dey
☆dey be動詞/be in,at/to be alive/現在進行形を作る など。

It is him (who) is bring(ing) the matter he is inと置き換えられるので、
「それは彼の自業自得だ」というような感じかと思います。

『Yellow Fever』から
Yeye thing
・yeye useless  肌を脱色するのは「無駄なことだ」

Underground systemから。
I don sing song for great African men
「俺は偉大なアフリカの男たちについて歌った」
・don 過去、完了。英語のdon'tと紛らわしい。

Yeye president no fit dey
☆fit 能力がある、できる
yeyeは既出、useless。
「役立たずの大統領にはできやしない/ふさわしくない」だと思う。

You no see Nkurmah dem finish am O
☆dem them, they
☆O! 文の終わりに置かれる感嘆詞。よくコーラスに出てきます。
☆Kwame Nkurmah クワメ・エンクルマ。米CIAに支援された軍によって失脚させられたガーナ初代大統領。。
You don't see that Nkurmah they finish him Oとなるから、
「お前はわかってない、奴らがンクルマを終わらせたことを」でしょうか。

He's di only leader wen e dey
☆di the
☆e it's/he/she
☆wen when
He is the only leader when he isとなり、
「彼が(リーダーになった)とき、彼こそが唯一の(アフリカ全体を導く)リーダーとなるだろう」だと思います。