ゆく秋の川びんびんと冷え緊まる夕岸を行き鎮めがたきぞ/佐佐木幸綱

石川信雄『cinema シネマ』(1936)(復刻、ながらみ書房)が復刻されてた。
装丁、かっこよし。
手持ちなく、買えず(別に高くない、1500円ナリ)。
筑摩書房『現代短歌全集』(7巻)で持ってるが、単独の歌集で読む方が楽しい。

『現代短歌全集』、古書だと全15巻揃でもけっこう安いと思うが、明治から昭和の重要な歌集が揃っててお得だと思う。
塚本邦雄や山中智恵子の師、前川佐美雄『植物祭』とか。20~30年代モダニズム短歌の時代ですね。

ひじやうなる白痴の僕は自転車屋にかうもり傘を修繕にやる 前川佐美雄
しかし、こういう歌と現在のある種の口語短歌って、あんま変わらないという気もする。

その復刻版『シネマ』の帯は佐佐木幸綱が書いていた。
岩波文庫で古典読むとお世話になる、国文学者佐佐木信綱の孫。
口語まじり文語の韻律で現代的な風俗をかっこよく読む、という意味で、現代口語短歌の大きな源流の一つになった人だと思う。
弟子である『サラダ記念日』の俵万智も、やっぱりそういう流れを受け継いだ古典的な歌人だと思う。

「ゆく秋の川びんびんと冷え緊まる夕岸を行き鎮めがたきぞ」という歌、

思ひかね妹がり行けば冬の夜の河風寒み千鳥鳴くなり 紀貫之(拾遺和歌集)
 恋しさに、恋人の元に冬の夜を急げば、河風の厳しさに、千鳥が寂しげに鳴いている。
の口語訳の試み、かと思う。紀貫之、「人はいさ」とか『土佐日記』のウィットとは違った男性的なリリシズムのうた。

古今集時代の和歌は「理知的な作風」と言われるけど、ここではそれを肉体的なものに読み替えているわけだ。
短歌は俺たちにとって、かっこいいはずだ!という。

かっこいい一首であり、そして特に本歌とかいわなくても、遡って、なんか和歌とかかっこいい、とも思わせるような歌ですね。
すごいtour de forceといえるんじゃないでしょうか。

サキサキとセロリ噛みいてあどけなき汝を愛する理由はいらず
父として幼き者は見上げ居りねがわくは金色の獅子とうつれよ

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