バリスタの涙

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決心

「あ痛てて・・・・」

昨日、朝方まで飲んだ12時過ぎに目を覚ました。


飲みすぎたナーと思いながら、よろよろと起きて洗顔をする。

後輩の谷中と三城はまだ、ぐっすり寝ているようだ。


良太は、今日、するべきことを決めていた。

先日、一気に読破した相葉 数馬のライバル店が高松にも出店していることを知り、一人で行くことに決めていた。高松の一等地とも言える商業区画に鳴り物入りで今月、出店してきた。


ライバル店は、マーメードカフェ。

アメリカのシアトルから来ている。

既に全国に300店舗を出店。


ここまでが良太の知っている情報だった。

相葉 数馬のチェーン店は、まだ70店舗足らず。

規模においては、到底かなう相手ではないようだ。


準備をし、愛車のエンジンをかけ向かった。


ついたのは、ちょうど15時くらい。

そこには、良太の想像を超える行列が出来ていた。


「なんだこれ??」

良太の率直な感想だった。

みれば、年齢層関係なく行列をなしている。

ただただ、その光景に衝撃を受けた。

二日酔いの頭痛も感じなくなっていた。


そこまでして、飲みたいコーヒーなのか、いったいどんな味なんだ??

良太は最後尾に並び、目を丸くしながら店舗をキョロキョロ見渡していた。


行列はどんどん前に進んでいる。

「こんにちは!ご注文はお決まりですか?」

良太の番になったが注文方法がよくわからない。

「おすすめは何ですか?」

良太は店員に素直に聞いてみた。

「おすすめはこちらです!甘くて美味しいですよ!」

甘いのか・・・と思ったがここは素直にその女性店員に従ってみた。

「じゃあ、それで」

「はい!ありがとうございます!」

「サイズは如何しますか?」

「サイズ?」

「こちらから、小、中、大とございます」

「じゃあ、中で。」

「はい!ありがとうございます!キャラメルラテのトールサイズで400円です!」

「あっはい。」

「オーダー入りまーす!トールキャラメルラテ!」

その店員に続いて、作り手のほうが何か言葉を返している。


では、あちらでお待ちください!という店員に促されて、今度は会計が済んでいて、ドリンクを受け取る列で待つ。

また待つのか~と思っている良太の前には大量のオーダーされた紙カップを前に次々にドリンクを作っていく3名の店員がいた。

大変お待たせしました~と言う言葉と共に出来上がったドリンクがきちんと順番に渡されていく。


程なく、良太の受け取る順番になり、ドリンクを受け取る。

席がたまたま空いていたので、座って飲むことにした。





決心

あれから数日。

良太の心には、まだモヤモヤしたものがあった。

その感覚が何故続いているのか、良太にもよくわからなかった。


週末、一仕事終えた良太はひとまず、気晴らしに出張から帰ってきた後輩二人を連れて、いつもの高松のバーに繰り出した。


この店は、良太が大阪本社から転勤の辞令をもらい、高松に着たが、独身者は良太一人だった。

夜になると、友達もいない土地で寂しかったので一人高松の繁華街をフラフラしたときに見つけた。

店員も若く、気さくに接してくれて、転勤の寂しさがかき消された。

以来、後輩が出来た今も出張帰りや週末には足繁く、通っている。


「出張お疲れやったな」

3人でビールジョッキを片手に乾杯。

「いやー今回も大変でした!」

営業所で一番年下で今年入社の谷中が笑顔で応えた。

「何が大変やったん?」

「いやー取引先の社長が曲者でなかなか話が前に進みませんでした!」

谷中は他の社員なら深刻になる話もケラケラと笑いながら話すところが良太のお気に入りだ。

「そうか、そうか、まーあの社長だからね。でも、今回は三城がいたから大丈夫だろ」

「いやいや、谷中も頑張ってましたよ」

良太の2歳年下で良太と同じ大学出身の三城が先輩らしく後輩を褒めた。

「そっかー、三城も随分一人で出来るようになってきたね」

「黒田さんのおかげですよ!ずっと教えてくれたからですわ!」

三城も随分、世渡りがうまくなってきたなと良太が感じたその時、

「黒田さんと三城さんに教えてもらった僕はもっと成長します!!」

谷中は、相変わらず調子がよかった。


この二人の後輩こそ、良太自身が3年間自分が育てたと言い切れる存在であり、

かわいくてかわいくて仕方の無い存在だった。


「黒田さんは、これからどうなりたいんですか?」

谷中の唐突な質問がきた。というより、いつものことである。


「これからな~。」

「もちろん、高松営業所長ですよ!」

三城もテンションが上がっている。

「黒田さんなら、営業所長に直ぐになれますよ!」


良太はそれも悪くないのかな・・・とも思った。だが、そこに魅力を感じているわけでもなかった。


「所長になってもお前らが部下かー」

「いやいやいや!」

良太の返しに、二人が声を揃えて返す。

いつもの光景、いつもの楽しい時間だった。


じゃ、2件目いきましょう!という谷中に押されて、これまたいつもの2件目の店に。

会計はほとんど良太持ち。


このままでいいのか、このままでいけないのか・・・良太は悩んでいた。




暑い日に

営業所に帰ったが、営業所は無人。

良太は自分の仕事を片付けて、営業所に鍵をかけた。


良太は、会社の寮住まい。

3LDKに良太と後輩二人が住んでいる。


その寮と営業所の間に、良太がよく利用する本屋がある。

良太自身、毎月、2冊以上は本を読んでいて社会人から読書の習慣が身につき始めていた。


良太はいつものごとくビジネス書の新刊コーナーに行く。

「成功」だの「これから」だの「ビジネスマンが~」だのといつものごとく文字が踊っている。


その中にふと目に高く平積みされている留まる一冊の本。


「俺のコーヒーを飲め! ひとりの青年が巨大チェーンに挑戦状!!」  相葉 数馬


なんとも勇ましいタイトルだなー、と思い手に取る。

いつもなら、パラパラと内容を見るが、何かのインスピレーションが働いたのか、

良太にしては、珍しくそのままレジへ。


昼の出来事もあり、若干、そういう業態に興味が湧いたのかもしれない。

でも、それだけではない何かがその本を買わせた。


良太は、寮に帰りいつもはテレビをつけるが、買ったばかりの本を開く。

幸い後輩の二人は出張中。


そこには、ひとりの青年がカフェチェーン事業を立ち上げ、成功する物語が活き活きと綴られていた。

良太には、珍しく一気に読み終えた。


「相葉 数馬か~。すごい人がいるなー。年もそんなに違わないのに・・・。」


最初の良太の思いは、そんなものだった。

だが、徐々に心に積もるものが出来始める。


良太の心で何かが大きく動き始めた。