記憶の音②
いつごろからはわからないのですがかなり小さいときから
繰り返し見ている夢がありました。
一面の原っぱを囲んだように木が生い茂っている公園。
その広い原っぱを私は一人で歩いているんです。
原っぱの上を、少し上を 滑るように歩きながら
道を進んでいくとやがて赤い特徴的な三角屋根の建物が見えてくる。
そのそばで家族が遊んでいるのです。
傍らには自転車が置いていて、
きっとお父さんが子供たちを連れて
遊びにきてるんだ。
子供が2人か3人とお父さんの家族連れ。
楽しそうに過ごしている。
いいなぁ。
私はその家族のところへ行きたくて
楽しそうなその家族のとこに近づこうとするんだけど
私は自分の道から外れられない。
家族は私に気付かない。
家族のうち一人だけ、小さな子供が私に気付きそうになって
振り返る。
その間流れているのは へたくそな練習中のエレクトーン?の曲が聞こえる。
そこでたいてい私の目が覚める。
そんな夢。
その夢は何度も何度も見て、だんだんはっきりしてきました。
家族連れの顔もなんとなく見えてきました。
オルガンのような音の曲もいつも同じなのです。
でも何の曲かはわからない。
目が覚めると、いつも
「なんで、私に気付いてくれないんだろう」
と思ったりした気分がのこっていて
ちょっとした孤独感と、それと
なんとなく懐かしい感じ。
それは、不快な感じじゃなくて。
その場所がとても素敵なとこなんです。
想像で作った場所かもしれないけど
だけど、あったら行ってみたいなずっと思っている場所。
私は、そんな夢を繰り返し見ていたことを
オルガンの彼女への手紙で書きました。
そして、しばらくして彼女から返事が来ました。
封筒を開けると、そこには写真が一枚入っていました。
それは一本の道の写真。
写真の裏にはこうかいていました。
「これは私の生まれた町です。
あなたの夢に出てくる景色に似ていると思うので送ります」
その写真は、
まっすぐな土の道の両側に 木がずらっと並んでいる場所の写真。
???
私の見た夢は原っぱって書いてたのに。これ道じゃん。
どうしてこの子ったら、これが似てると思ったんだろう?
私は、その写真を何度も何度もみながら
彼女がそう思った理由を探してみました。
だけど、わかりませんでした。
そしてその写真を何度も見ているうちに私はなんとなく、
ああ、彼女も「生きてるんだ」って感じました。
手紙の返事はたまーにくるものの、ナゾの人といえばナゾの人の
彼女だから、だんだんと「実態の無い」人にも思えてきてたのです。
だから、この手紙を見て、
ああ、私がやり取りしているのは、やっぱり実在する人なんだなぁと
なんともいえないうれしさというか、妙な感動をしてしまいました。
写真を見ながら
どこなんだろな。
日本のどっかなんだよね
大体もしここだとしたとしても、ヒントもなんもないんだもん
これじゃあ、わかんないよー
私、あなたがどこの生まれかどころか
あなたの本名さえ知らないのに。うふふふふ。
なんて考えながら飽きることなくその写真を見ていました。
その人が
故郷に帰ったそのときに
まったく知らない私を思い出して、その夢を思い出して
そしてその景色をみせてやろうと思ってくれたことに
私はとてもうれしくて感謝しました。
私の夢に出てくる場所はどこか私だってわからないし
実在するのかといわれれば
たぶん、実在しない。
きっとテレビや写真で見た景色の断片を繋ぎ合わせているだけじゃないかな。
だから見つかるわけない。見つかるわけないのに
そんなの大人だったら誰でもわかるだろうに。
なのに
覚えてくれてたんだ。
その光景を。
ありがとう。
その写真を大事に大事に手帳にはさみ
私はときおり、その写真を見ていました。
彼女には嘘はつきたくなかったので正直に返事を書きました。
「私の夢の話を覚えていてくれてありがとう
でも正直に言うと残念ながらここじゃないと思う。
それでも、とても素敵な場所で、
何よりあなたが故郷に帰ったときに
この景色を見ず知らずの私に見せてやろうと思って
写真を撮ってくれたことが、とてもうれしい」
そんなことを書きました。
せっかく送ってくれたのに、ちょっと失礼?かなと
思ったけど、今まで彼女に対して送った手紙には
1つも嘘を書いていなかっただけに
いらないお世辞は書きたくありませんでした。
そして、きっとそれは・・・まったく彼女のことをよく知らないけど
でもきっとこの人ならわかってくれると信じていました。
今のようにネットが普及していない当時は
彼女の作品や活動の情報を得ることがなかなか難しかったのですが
かろうじて彼女が当時参加していた1つのバンドの事務所が
一番良くスケジュールを把握してらっしゃったので、
私は時々そこに電話をしては
新しいCDやライブの情報を聞いていました。
事務所のデスクの女の子も、もう事情をわかってくださっていたので
だんだんと電話をかけたら「ああ~○○さんの予定ですよね!」と
聞かずとも教えてくださるようになりました。
そして、一年ほど経ったあるとき、その事務所の方と
雑談交じりに話していたときにふと、違和感を感じたのです。
もしかして・・・?
「あの・・・ちょーと変なこと聞きますが…えっと・・・女の子ですよね?」
と私が聞くとそのデスクの方は
「!!やっぱり!?そう思われてたんですか?!
stupidさんの話っぷりからしてもしかして、そう思われてるのかなぁ・・・?
って私も時々思ってたんですよ~でもわざわざ言うのもおかしいし・・・(笑)
違いますよぉ!あの方はよく間違われますが男の人なんですよ~!」と大笑いされたのです。
・・・私はずっと勘違いしていたのでした。
彼女は いえ 彼は
遠目でしか見えない舞台の上の姿も
華奢で、小柄で いつもうつむき加減で
弾いていないときはまるでうって変わったように
キーボードの前に小さく静かにたたずんでいて、
そして黒くてきれいなストレートロングヘア。
ほんの数通ではあるけど、頂いた手紙の
特徴のあるまるい文字も、かわいい便箋も
そして控えめな文章も
とにかくがさつな私に欠けているものばかり持っていたので
疑う余地もなく、最初の第一印象のまま私は彼を女性と思っていたのです。
電話を切ったあと、
落ち着いて振り返って考えてみると
そういや、男の人っぽいとこもあったなぁ。
なんて、間抜けなことを考えたりして
今までの自分の長い長い勘違いに
おかしいやら申し訳ないやらでした。
まぁ男性でも女性でもいいや。
どっちにしても音は変わらないもの。