東京株式市場で太陽誘電(6976)の株価が大きく揺れ動いている。人工知能(AI)特化型ファンド、米シチュエーショナル・アウェアネスによる株式の大量保有が明らかになったのがきっかけだ。7月末にかけて「ナンピン買い」を繰り返したシチュエーショナルは損失に耐えきれず救済に追い込まれた。落日した時代の寵児(ちょうじ)による大量保有は太陽誘電株にとって吉と出るか凶と出るか――。
太陽誘電の株価は12日、前営業日から横ばいの9548円で取引を始めた。その後は9306円まで下落した後、午後には717円(7.50%)高の1万265円まで買われて高値引けとなった。金融庁の電子開示システム「EDINET」でシチュエーショナルの大量保有が明らかになったのにつれて思惑的な買いが活発となり、株価を押し上げた。
シチュエーショナルは米オープンAIの元研究者であるレオポルド・アッシェンブレンナー氏が2024年に立ち上げたファンドだ。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、わずか2年でファンドの規模を200億ドル(約3兆2000億円)超に育て上げ、今年前半には400%を超える運用利益をたたき出した。サンディスクやコアウィーブなど米AI関連株への投資で急成長したことから「AI界のノストラダムス」と呼ばれ、もてはやされていた。
だが、7月の世界的なAI・半導体関連株の急落で状況は一変。シチュエーショナルの資産が急減し、米ヘッジファンドのシタデルが保有株の大部分を買い取って救済するに至った。金融機関からのマージンコール(追加担保の差し入れ要求)に対応しきれなかったのが理由とみられている。
そのシチュエーショナルは8月12日になって突然、太陽誘電の大量保有報告書と複数の変更報告書を午前中から午後にかけて断続的に関東財務局に提出した。シチュエーショナルが太陽誘電を売買していたのが明らかになるのは初めてだ。大量保有報告書はある銘柄の保有比率が5%を超えると提出義務が発生し、その後は1%増減すると変更報告書を出す必要がある。
12日の取引が終了する前である14時51分に提出した変更報告書によると、シチュエーショナルは6月23日から7月22日にかけて太陽誘電株をおよそ2250万株取得した。7月3日と6日には一部を売却したものの、この時点では発行済み株式数の16.61%を占める規模だ。
売買の記録と太陽誘電の株価を照らし合わせると、シチュエーショナルは高値近辺でつかんだ後、株価が下落する中で「ナンピン買い」を繰り返して損失が拡大していった姿が浮かび上がる。太陽誘電の株価は7月1日に昨年末の7倍近い2万4065円まで買われたあとに急落し、7月下旬には9000円を下回る場面があった。7月の下落率は49%あまりと、日経平均株価の採用銘柄で最大だ。
日々の取得株数とその日の終値を使って計算したところ、6月23日〜7月22日の取得額は約3255億円だ。シチュエーショナルが報告した取得金額(3362億円)とはやや誤差があるものの、太陽誘電株の7月22日時点の終値で計算すると評価額は2820億円程度と、当時で500億円前後の損失を抱えていたことになる。
取引終了後には7月28日と30日に株式を売却したと公表。16時18分の報告では8月3日に市場外で1464万株を売却したと明らかにし、保有比率は4.41%まで急速に低下した。シタデルの救済が報じられたタイミングで一気に保有株を減らした様子が浮き彫りになり、ある外資系証券のトレーダーは「ファンドが苦境に陥り、救済されるまでのストーリーの一端が垣間見えるようだ」と話していた。
〔日経QUICKニュース(NQN) 川上純平〕