今回紹介する作品は
1959年(昭和34年)新東宝
「戦場のなでしこ」
石井輝男監督



あらすじ
第二次世界大戦終戦直後の満洲では、日本軍の従軍看護婦たちが国際赤十字の看護婦として再編成された。だが、国際赤十字とは名ばかりで、彼女達は過酷な運命に遭遇することになる。



吉成健次(宇津井健)
国際赤十字の医師です。今回の宇津井さんは「ハリケーンの政」と打って変わりカッコいいです。
宇津井さんは正義感が強くて職務に忠実な役がピッタリなんですね。
おまけに、得意な馬上シーンもあるので、新東宝でのベスト作品かも知れません。



荒井秀子(三ツ矢歌子) 宇津井さんの恋人の看護婦。
石井監督お気に入りの歌子さんが初のカラー作品に出演したので、ゴリ押しで優遇しています。
チャイナ服を着せたり登場度を高くしたりして、当初の設定よりも重要度が増した様で、事実上のヒロインになりました。



堀喜代子(小畠絹子)
看護婦たちのリーダーで、一応本作品の主演扱いなんですが、石井監督の為に三ツ矢歌子さんより目立たなくなりました。
しかし、外で銃撃戦が起こっている中での緊急手術で、沈着冷静かつ適切な対応ぶりは流石で、看護婦長役が日本人で一番似合う女優さんだと思いました。



大北れい子(星輝美)
輝美さんの新東宝2作目の役は、”恋愛よりも甘いお菓子が好きな”見習い看護婦でした。



看護婦たちの食事の様子 輝美さんと小田まゆみ役の大空真弓さん
国際赤十字に編入されたとはいえ、日本人と中国人とでは全く待遇が違い、中国人看護婦達にはごちそうが出ますが、日本人には塩万頭とコーリャン飯だけでした。



銃撃戦の中での緊急手術で宇津井さんの顔を拭く輝美さん
このシーンにはエピソードがあって、石井監督が「輝美、汗ふいて」って云うから、自分の顔の汗を吹いたら「自分のじゃない、先生の汗だ!」と怒られます。
「天然ボケ」の素養がある輝美さん。



輝美さんは流れ弾に当たり、絶命してしまいます。
作品前半20分あまりで居なくなりますが、撃たれて亡くなるまでのシーンは良い演技でした。
輝美さんは「息をしないでいるというのがえらく苦しかった」というのを覚えています。と語りました。



徳永長(並木一路)
輝美さんの死後、看護婦達は順々に奥地に送られますが、実はソ連軍相手の慰安婦にされてしまいます。
並木さんはソ連軍との仲介業者の中国人役。
看護婦たちを慰安婦にしただけではなく、スケベ親父で、歌子さんを狙います。
石井作品では、こういう役は近衛敏明さんで決まってるのですが、舞台が舞台なだけに、あえて並木さんにしたのでしょうか。



慰安婦にされてしまった歌子さんと吉田昌代さん。
但し、歌子さんはソ連軍人の相手はしません。看護婦達が歌子さんを守ります。



慰安婦にされた事を伝える為に、ソ連軍施設を脱走した田原知佐子さん。
銃弾を喰らいながらも逃げ延び、看護婦仲間に伝えて絶命します。
ここも名シーンですが、田原知佐子さんはこの作品を最後に新東宝を退社。
原知佐子に改名して現在に至ります。


そして、ここが問題のシーン


馬に乗って救出に来た宇津井さんを追う歌子さん。
※画質が悪いので、分かりにくいですが、快晴の空です。



カメラが切り替わると何故か真っ白な雪景色にビックリマーク

これは会社から早く撮影を撮り終われと、度重なる催促に怒った石井監督が抗議の意味で会社に送り付けたのですが、何故か編集せずにそのまま上映されてしまいました。

新東宝の監督は早撮りが必須条件なんですが、石井監督はじっくり撮る方で(古川ロッパ談)その結果がこんな事になってしまったのです。



張建竜(大友純)
看護婦達の本体が居る病院の責任者で、日本人を大変憎んでいます。
先に奥地に派遣された看護婦達が慰安婦にされた事が分かり、看護婦達が抗議のストをすると。
「日本軍隊、満洲で私達の親兄弟に何した!知ってる!」
「日本人何人か慰安婦になる!当たり前!」と凄い形相で凄みます!

今の時代に観ると「ふざけるな!」と思いますが、戦後14年しか経ってない当時では、どうだったのでしょうか。
大友さんも迫真の演技でした。



絶望した看護婦たちは慰安婦されるよりも死の道を選びます。
歌子さんに貰った口紅で化粧をする大空真弓さん。

その後、宇津井さんや小畑さんの活躍で、看護婦たちは日本に帰る事が出来る様になったのですが、その知らせが伝わる前に看護婦たちは自決しました。


あとがき
「戦場のなでしこ」は10年前に録画したもので、このブログを書くまでは、沖縄のひめゆり隊を参考にしたフィクションだと思っていましたが、実話だったのです。

 
これが看護婦たちの遺書
 
遺 書

 二十二名の私たちが 自分の手で命を断ちますこと
 軍医部長はじめ婦長にもさぞかし御迷惑と深くお詫び申し上げます。

 私たちは敗れたりとは云えかつての敵国人に犯されるよりは死を選びます。

 たとえ命はなくなっても 魂は永久に満州の地に留まり 
 日本が再びこの地に還って来る時、ご案内致します。

  昭和21年6月21日 散華
  旧満州新京(現長春)
  通化路第八紅軍病院


「戦場のなでしこ」はブログで取り上げた問題シーンもあってか、一部で「キワモノ作品扱い」されている様ですが、終戦後の満洲でこんな事があった史実作品として、もう少し評価されても良いと思います。