Pure Blossom -2-
最初は、大勢居た友達の一人だった。
彼はずっと住んでいた私とは違い、小学生の時にこの団地に引っ越して来たのだ。昔馴染みの友達に新しい顔が増えた、その程度だった。別に好んで一緒に居た事も無かったし、意識してどうこうした訳でもなかった。遊んだし喧嘩もしたし、至って普通の友達付き合いだったと思う。
だけど、成長するに従って私達の付き合いは変わっていった。友達という事に変わりは無かったとは思う。けれど、進学先が分かれたり思春期を迎えたりしていくにつれて、昔の様に無邪気な付き合いは出来なくなってしまった。その時に疎遠になって以来、付き合いが殆ど無くなった子も居る。彼とも一時期そうだった。
つまらない事で意地を張って喧嘩して、酷い事を言ったし言われたりもした。中学生の時は殆ど口を利かなかった様に思う。口を開けば喧嘩ばかり。素直になれなかった。
転機が訪れたのは、進学先が決まった時だった。同じ団地の同級生達の中で唯一、私と彼だけが同じ高校へ行く事になったのだ。最初は別に気にも留めていなかった。けれども、殆ど同じ時間に家を出る彼の背中を追いかけるうちに「何で一緒に登校出来ないんだろう」と思う様になっていった。
そして、そう思った自分に愕然とした。
(馬鹿じゃないの、私)
一緒に居るのが当たり前だったのは、もう昔の事なのだ。そう自分に言い聞かせていたが、ある日偶然家を出た直後の彼に会ったのだ。
一緒に行こう、と言えたのは、今思えば奇跡だったと思う。そして、彼がそれに応じてくれたのも。
「あ、あのさ、どうせ一緒のとこに行くんだし……待ち合わせして一緒に行かない?」
意を決して彼にした提案。戸惑いながらも承諾してくれた彼。その時見せた彼の笑顔に、胸が震えたのを覚えている。そして、自覚した。
私は彼が好きなのだ、と。
「うぁー……今日遅刻ギリギリだったー……」
「だったら少しは早起きしろよ」
「朝もうちょっと飛ばしてくれれば良かったんだよ」
「それが乗せてやった俺に対する態度か」
けれど、そんな気持ちを伝えられる訳も無い。
だからこうやって、いつも通りの「幼馴染み」で居るしかないのだ。
休み時間に彼と少し話したお陰か、上機嫌な私を友人達がからかう。
「恋する乙女だねぇ」
「あはは。何か可愛いよー」
「そっ、そんなんじゃないよ」
口で否定はするものの、赤くなる頬は隠せなかった。
「ところでさ」
一人がトーンを落として話す。
「もう言ったの? あの事」
彼女の言葉に、私は黙って首を振る。
私の様子に彼女は呆れた様にため息をついた。
「いつまで黙ってるつもりなの? もういい加減……」
「解ってる。……解ってるよ」
自分に言い聞かせる様に、解ってる、と私はもう一度呟く。
「それなら良いけどさ。隠してるのって、あんまり良くないよ? 解った時に傷付くだろうし」
「うん……」
彼女の言う通りだ。隠していても、いずれ解ってしまう事なのだ。それならば自分から早く言ってしまった方が良いに決まっている。
だけど、と私は彼の姿を思い浮かべる。その姿が酷く遠く思えて、泣きそうになってしまう。
自分で考えて、自分で決めた事なのに。
彼はずっと住んでいた私とは違い、小学生の時にこの団地に引っ越して来たのだ。昔馴染みの友達に新しい顔が増えた、その程度だった。別に好んで一緒に居た事も無かったし、意識してどうこうした訳でもなかった。遊んだし喧嘩もしたし、至って普通の友達付き合いだったと思う。
だけど、成長するに従って私達の付き合いは変わっていった。友達という事に変わりは無かったとは思う。けれど、進学先が分かれたり思春期を迎えたりしていくにつれて、昔の様に無邪気な付き合いは出来なくなってしまった。その時に疎遠になって以来、付き合いが殆ど無くなった子も居る。彼とも一時期そうだった。
つまらない事で意地を張って喧嘩して、酷い事を言ったし言われたりもした。中学生の時は殆ど口を利かなかった様に思う。口を開けば喧嘩ばかり。素直になれなかった。
転機が訪れたのは、進学先が決まった時だった。同じ団地の同級生達の中で唯一、私と彼だけが同じ高校へ行く事になったのだ。最初は別に気にも留めていなかった。けれども、殆ど同じ時間に家を出る彼の背中を追いかけるうちに「何で一緒に登校出来ないんだろう」と思う様になっていった。
そして、そう思った自分に愕然とした。
(馬鹿じゃないの、私)
一緒に居るのが当たり前だったのは、もう昔の事なのだ。そう自分に言い聞かせていたが、ある日偶然家を出た直後の彼に会ったのだ。
一緒に行こう、と言えたのは、今思えば奇跡だったと思う。そして、彼がそれに応じてくれたのも。
「あ、あのさ、どうせ一緒のとこに行くんだし……待ち合わせして一緒に行かない?」
意を決して彼にした提案。戸惑いながらも承諾してくれた彼。その時見せた彼の笑顔に、胸が震えたのを覚えている。そして、自覚した。
私は彼が好きなのだ、と。
「うぁー……今日遅刻ギリギリだったー……」
「だったら少しは早起きしろよ」
「朝もうちょっと飛ばしてくれれば良かったんだよ」
「それが乗せてやった俺に対する態度か」
けれど、そんな気持ちを伝えられる訳も無い。
だからこうやって、いつも通りの「幼馴染み」で居るしかないのだ。
休み時間に彼と少し話したお陰か、上機嫌な私を友人達がからかう。
「恋する乙女だねぇ」
「あはは。何か可愛いよー」
「そっ、そんなんじゃないよ」
口で否定はするものの、赤くなる頬は隠せなかった。
「ところでさ」
一人がトーンを落として話す。
「もう言ったの? あの事」
彼女の言葉に、私は黙って首を振る。
私の様子に彼女は呆れた様にため息をついた。
「いつまで黙ってるつもりなの? もういい加減……」
「解ってる。……解ってるよ」
自分に言い聞かせる様に、解ってる、と私はもう一度呟く。
「それなら良いけどさ。隠してるのって、あんまり良くないよ? 解った時に傷付くだろうし」
「うん……」
彼女の言う通りだ。隠していても、いずれ解ってしまう事なのだ。それならば自分から早く言ってしまった方が良いに決まっている。
だけど、と私は彼の姿を思い浮かべる。その姿が酷く遠く思えて、泣きそうになってしまう。
自分で考えて、自分で決めた事なのに。