After Concert -2-
「で、お前、そのカルテットと一緒に練習してる訳?」
「うん」
「へぇ…去年の変わり種二組がねぇ」
一限目終了後、友人は呆れとも感心ともつかぬ声でそう言った。
結局昨日は殆ど練習にならなかった。件のカルテットに気を取られていたのもあるし、あの時点では自分の演奏曲が未完成だったというのもあった。
まだ誰にも伝えていないが、今年は自作曲を発表するつもりなのだ。昨日家に帰ってから、ようやく完成した。題名は、決まっていない。
正直、かなり悩んでいた。
クラシックをやるか、今流行の曲をピアノアレンジでやるか、それとも作曲に挑戦してみるか。
勿論、有名な曲の方が受けは良いだろうし、何より弾いた後の反応も大きい。しかし、ありきたりだ。
それにブラスバンド部や他の有志バンドの発表と重複する可能性がある。第一、ブラスバンド部の補欠ピアノ要員としてそういう曲を練習している。僕が弾かなくても、ブラスバンド部は演奏する。
敢えて「僕が」やる必要は無いのだ。その思いが「自作曲発表」を躊躇っていた僕の背中を押した。
作曲は当然ながらそう簡単にはいかなかった。僕だけのオリジナルを作り出すのがこれ程難しいとは、正直想像以上だった。
「んで、今日も放課後は練習?」
「その予定」
「俺暇だから、顔出しても良いか?」
「良いけど…バンド組むって言ってなかったっけ」
「今日はお流れ。クラスの手伝いだとよ」
「ふぅん…まぁ、お好きに」
自作曲初お披露目の相手は、この友人になりそうだ。
放課後の廊下は、どこもかしこも賑やかだ。
僕と友人は、その喧騒から少し離れた音楽室へ向かっていた。
「おーぅ、たのもー」
「道場破りじゃないんだから…」
やたらとハイテンションな友人がドアを開けると、既に先客が居た。
同級生の彼女。彼女の視線が、僕から友人へと移る。
「久しぶりじゃねーか」
「どの辺りが久しぶりよ。毎日顔合わせてるじゃない」
友人と彼女は慣れた様子で喋っている。
状況はよく解らないが、どうやら顔馴染みらしいという事は解る。
「え、じゃあ、ピアノの人って同じクラスなの?」
「何だ、知らなかったのか」
「だって昨日殆ど喋ってなかったし」
「それじゃ自己紹介もしてないのかよ」
ぐい、と腕を掴まれる。会話に参加しろ、という事らしい。
「痛い…」
「奥手だな、お前。自己紹介くらいしろよ」
「そんな余裕無かったし」
「んもぅ、照れちゃって」
「……凄まじく気持ち悪いから放してくれ」
「ちぇ、連れねえのー」
友人曰く、彼女とは去年クラスが同じで、それ以来の付き合いだという事だ。
彼女は隣のクラスの生徒だったのだ。
隣のクラスにも何人か友人は居るが、彼女の存在には全然気付かなかった。特に接点も無かったから、当然と言えば当然だろう。
ついでに、と友人が言いかけた時、誰かが音楽室のドアをノックした。
彼女が応じると、女子生徒が顔を覗かせた。カルテットのもう一人、後輩の子だった。
「あ、お姉ちゃん、先に来てたんだ」
「ん。早く終わったからね」
「…お姉ちゃん?」
「妹なの。二人とも、ヴァイオリン」
彼女の妹がちょこんと頭を下げる。よくよく見れば、確かに似ている。
僕以上に奥手なのか、楽器ケースを抱えてうつむいてしまった。慣れない人と話すのは苦手なのかもしれない。
「ちなみに、よく似てるけど、先輩はヴィオラなの」
彼女の妹に遅れること数分、先輩二人が来た。
チェロ担当の先輩が、友人を見て唖然としている。
「いよう、馬鹿兄貴」
「何でお前が居るんだ、愚弟」
愚弟とは時代がかった言い方だが、つまり先輩は友人の兄という事だ。
「あれ、知らなかった?去年ヴァイオリンやってたのも、俺の兄貴なんだよ」
「先輩卒業しちゃったからね。それで、私の妹がメンバーに入ったの」
こくり、と応じる彼女の妹。
話を整理する。
去年のカルテットは、彼女、ヴィオラ担当の先輩、友人の兄二人で編成されていた。
今年は卒業した友人の兄の後継者として、彼女の妹がメンバーになった。
「ヴィオラの先輩は…誰かの兄弟、とか?」
僕の質問に、先輩はいいや、と首を振る。
「こいつの幼馴染み。幼稚園から一緒だな。兄弟みたいなものだけど」
こいつ、とは友人の兄の事。当然俺も同じだ、と友人が付け足す。
カルテットが親類縁者で組まれていたとは思わなかった。
何だろう、この疎外感は。
僕だけ話が解らない。
「何で俺誘ってくれなかったんだよ、馬鹿兄貴」
「男ばっかだとむさ苦しいじゃねえか、愚弟」
「以下同文」
先輩達は慣れた様子で友人を弄っている。
しかし、友人が誘われなかったとむくれるのは何故だろう。
「お前、ヴァイオリンとか弾けるの?」
「弾けるよ?言ってなかったっけ」
「聞いてない」
疎外感、倍増。
カルテットが親類縁者、ご近所様で組まれているとは。
それにしても、とふと思う。
この学校に「音楽専門コース」とか「音楽特待生」の様な制度は無い。至って普通の学校だ。それなのに、何故こんなにも「音楽家」が多いのだろう。
そして最大の疑問が、その音楽家が親類縁者や知り合いで占められている事だ。
ここまで揃うと感覚が麻痺してくるのか、驚きも感心も出来ない。何かの間違いで普通の学校に来たとしか思えなかった。
そんな人達に囲まれた僕は、この中では浮いた存在なのかもしれない。
「うん」
「へぇ…去年の変わり種二組がねぇ」
一限目終了後、友人は呆れとも感心ともつかぬ声でそう言った。
結局昨日は殆ど練習にならなかった。件のカルテットに気を取られていたのもあるし、あの時点では自分の演奏曲が未完成だったというのもあった。
まだ誰にも伝えていないが、今年は自作曲を発表するつもりなのだ。昨日家に帰ってから、ようやく完成した。題名は、決まっていない。
正直、かなり悩んでいた。
クラシックをやるか、今流行の曲をピアノアレンジでやるか、それとも作曲に挑戦してみるか。
勿論、有名な曲の方が受けは良いだろうし、何より弾いた後の反応も大きい。しかし、ありきたりだ。
それにブラスバンド部や他の有志バンドの発表と重複する可能性がある。第一、ブラスバンド部の補欠ピアノ要員としてそういう曲を練習している。僕が弾かなくても、ブラスバンド部は演奏する。
敢えて「僕が」やる必要は無いのだ。その思いが「自作曲発表」を躊躇っていた僕の背中を押した。
作曲は当然ながらそう簡単にはいかなかった。僕だけのオリジナルを作り出すのがこれ程難しいとは、正直想像以上だった。
「んで、今日も放課後は練習?」
「その予定」
「俺暇だから、顔出しても良いか?」
「良いけど…バンド組むって言ってなかったっけ」
「今日はお流れ。クラスの手伝いだとよ」
「ふぅん…まぁ、お好きに」
自作曲初お披露目の相手は、この友人になりそうだ。
放課後の廊下は、どこもかしこも賑やかだ。
僕と友人は、その喧騒から少し離れた音楽室へ向かっていた。
「おーぅ、たのもー」
「道場破りじゃないんだから…」
やたらとハイテンションな友人がドアを開けると、既に先客が居た。
同級生の彼女。彼女の視線が、僕から友人へと移る。
「久しぶりじゃねーか」
「どの辺りが久しぶりよ。毎日顔合わせてるじゃない」
友人と彼女は慣れた様子で喋っている。
状況はよく解らないが、どうやら顔馴染みらしいという事は解る。
「え、じゃあ、ピアノの人って同じクラスなの?」
「何だ、知らなかったのか」
「だって昨日殆ど喋ってなかったし」
「それじゃ自己紹介もしてないのかよ」
ぐい、と腕を掴まれる。会話に参加しろ、という事らしい。
「痛い…」
「奥手だな、お前。自己紹介くらいしろよ」
「そんな余裕無かったし」
「んもぅ、照れちゃって」
「……凄まじく気持ち悪いから放してくれ」
「ちぇ、連れねえのー」
友人曰く、彼女とは去年クラスが同じで、それ以来の付き合いだという事だ。
彼女は隣のクラスの生徒だったのだ。
隣のクラスにも何人か友人は居るが、彼女の存在には全然気付かなかった。特に接点も無かったから、当然と言えば当然だろう。
ついでに、と友人が言いかけた時、誰かが音楽室のドアをノックした。
彼女が応じると、女子生徒が顔を覗かせた。カルテットのもう一人、後輩の子だった。
「あ、お姉ちゃん、先に来てたんだ」
「ん。早く終わったからね」
「…お姉ちゃん?」
「妹なの。二人とも、ヴァイオリン」
彼女の妹がちょこんと頭を下げる。よくよく見れば、確かに似ている。
僕以上に奥手なのか、楽器ケースを抱えてうつむいてしまった。慣れない人と話すのは苦手なのかもしれない。
「ちなみに、よく似てるけど、先輩はヴィオラなの」
彼女の妹に遅れること数分、先輩二人が来た。
チェロ担当の先輩が、友人を見て唖然としている。
「いよう、馬鹿兄貴」
「何でお前が居るんだ、愚弟」
愚弟とは時代がかった言い方だが、つまり先輩は友人の兄という事だ。
「あれ、知らなかった?去年ヴァイオリンやってたのも、俺の兄貴なんだよ」
「先輩卒業しちゃったからね。それで、私の妹がメンバーに入ったの」
こくり、と応じる彼女の妹。
話を整理する。
去年のカルテットは、彼女、ヴィオラ担当の先輩、友人の兄二人で編成されていた。
今年は卒業した友人の兄の後継者として、彼女の妹がメンバーになった。
「ヴィオラの先輩は…誰かの兄弟、とか?」
僕の質問に、先輩はいいや、と首を振る。
「こいつの幼馴染み。幼稚園から一緒だな。兄弟みたいなものだけど」
こいつ、とは友人の兄の事。当然俺も同じだ、と友人が付け足す。
カルテットが親類縁者で組まれていたとは思わなかった。
何だろう、この疎外感は。
僕だけ話が解らない。
「何で俺誘ってくれなかったんだよ、馬鹿兄貴」
「男ばっかだとむさ苦しいじゃねえか、愚弟」
「以下同文」
先輩達は慣れた様子で友人を弄っている。
しかし、友人が誘われなかったとむくれるのは何故だろう。
「お前、ヴァイオリンとか弾けるの?」
「弾けるよ?言ってなかったっけ」
「聞いてない」
疎外感、倍増。
カルテットが親類縁者、ご近所様で組まれているとは。
それにしても、とふと思う。
この学校に「音楽専門コース」とか「音楽特待生」の様な制度は無い。至って普通の学校だ。それなのに、何故こんなにも「音楽家」が多いのだろう。
そして最大の疑問が、その音楽家が親類縁者や知り合いで占められている事だ。
ここまで揃うと感覚が麻痺してくるのか、驚きも感心も出来ない。何かの間違いで普通の学校に来たとしか思えなかった。
そんな人達に囲まれた僕は、この中では浮いた存在なのかもしれない。