咎人の楽園 | Minstrelsy

咎人の楽園

少し、眠っていたらしい。
夢と現実の狭間を漂う様な、ふわりとした心地良さ。
曖昧で、ぼんやりとしていて、境目さえ解らなくなりそうな暖かさ。
見上げれば、天井が空を遮っている。
見慣れない場所。知らない部屋。
隣には、眠る彼女。
心が現実へと引き戻される。


汚した、という罪悪感。
汚された、という喪失感。
彼女が寝返りを打つ。間違いなく、現実だ。
起こさないようにそっと口付け、ベッドを抜け出した。


熱いシャワーを浴びる。
残滓が流されていく。澱んだ躯が清められていく。
―――いや。
それは錯覚だ、と叫ぶ声が聞こえた気がして振り向く。
そうだ、許される事は無いんだ。
罪を犯した。消えることのない罪を。
ぞくり、と躯が震える。膝が落ち、床に座り込んでしまった。
熱いシャワーなのに、凍えるような冷たさ。
責めるように、なじるように、容赦なく降り注ぐ。
そうだ―――雨。土砂降りの、雨。
たった二人で逃げた時と同じ、土砂降りの雨だ。
逃げ出して…逃げ続けて…そして…―――。


寝室に戻ると、彼女は目を覚ましていた。
不安げな瞳でじっと見つめ、消え入りそうな声で言う。
これからどうなるの、と。
その問いに、精一杯の笑顔で応える。
逃げるんだ、二人だけの世界が見つかるまで、と。
不安と希望が溶けた涙が、彼女の頬を伝う。


もしも、望む世界が無かったとしても、きっと二人で行くだろう。
いつまでも、どこまでも、行くだろう。
冷えた躯を暖めようと、彼女の居るベッドに潜り込む。
しなやかな腕が、そっと抱き締めてくれた。
そうして、罪を重ねていく。
もう、戻れない。
進む事しか、二人には残されて居ないのだから―――。