僕には、小さな妹がいた。
僕とは父親の違う、歳の離れた妹だ。
母が再婚するまで、僕と母はふたりきりだった。
若くして僕を産んだ母と僕は、まるで姉弟みたいに仲が良かった。
そこに新しい父が来て、妹が出来て。
父と、何か問題があったわけじゃない。
母の関心が妹だけに向かってしまうことが、悔しかったわけでもない。
ただ僕には、3人の笑顔がまぶしすぎただけで。
僕は大学進学を機に、慣れ親しんだ地元を出て、独り新しい生活を始めた。

今でもこんなことが起こるなんて、おかしいと思ってる。
ありえないと思ってるよ。
あっちゃいけないことだって、分かってはいるけれど。
僕には、止められなかった。
僕だけじゃない。
彼女だって。
「里志くん」と彼女が呼んだ。
そして仔猫のように、僕にやさしくじゃれ付いてくる。
「里志くん」
彼女は決して、僕のことを「お兄ちゃん」と呼びはしない。
僕の顔を物欲しそうに覗き込んでくる大きな瞳は、若い頃の母の瞳にそっくりで。
僕は彼女の細い身体を、こちらにぎゅっと引き寄せた。
「初恋は、里志くんだったの。初めて会ったときからあたし、里志くんが大好きなの」
そう言って、突然飛び込んできた、父は違えど実の妹。
10数年のブランクは、僕も彼女も変えてしまった。
幼かったかわいい妹は、知らないうちに、僕の理性を吹き飛ばしてしまうほど、きれいな女性になっていた。
「深雪、どうしたの? 【神さまのいないところ】に行きたいの?」
おでこにキスして呟くと、彼女は小さく頷いた。
僕はわざとらしく「大きくなったね」と言いながら、彼女の身体を抱き上げた。
「じゃ、行こうか。【神さまのいないところ】へ」

もし本当に、そんな場所があるのなら。
僕らはきっと、今ある全てを捨ててでも、その場所を探すだろう。
ずっとふたり一緒にいられるのなら、僕らは神をも裏切れる。
「里志くん」
彼女の震える声をかき消すように、僕は彼女にキスをした。
いつまでも、僕らの時間が続くように、願いながら。



お題配布元:オペラアリス


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