「同じ空なんかないんだから」
彼があの時言った言葉を、私は今も鮮明に覚えている。
まるで、今耳元で呟かれたように、彼の声の響も、彼の吐息も、全てを思い出すことが出来る。
それくらい、私は彼の言った言葉に、心を奪われていた。

彼は、空を写真に収めるのが好きだった。
いつもカメラを持ち歩き、学校の暗室に篭っては、写真を現像していた。
彼がうっかり部屋の鍵をかけ忘れたときにかぎって、私もうっかりノックをせずにドアを開けたりして、お互いに苦笑いしたものだ。
彼の撮る空は、いつもどこか寂しげで、けれどとても輝いていた。
彼の言うように、同じ空はどこにもなく、何百枚と撮られた空の切り抜きには、同じ色すら存在しないのだった。
私は、数ある中から、一枚だけ彼から写真をもらった。
どこにでもありそうで、なかなかめぐり合えそうにない、消え入りそうな雲と太陽が交じり合った、とても不思議な写真だった。
彼は写真の裏側に、撮影日と「未柚へ」とマジックで書き込み、私にくれたのだ。
私には、何よりも大切な宝物になった。
夜は枕元にしのばせ、普段も肌身離さず持ち歩いた。
おかげで写真はボロボロになり、空の色もおかしなふうに変わってしまった。

私は今でも、あのときの空を探している。
彼と別れた後も、彼といた頃のように空を眺める癖が抜けなかった。
忘れたくなかったのだ。
彼が私にくれたものを。
彼が私に教えてくれた想いを。
ボロボロの写真は、今も大切にしまってある。
次に彼にめぐり逢えたとき、消えない想いを彼に伝えられるように。



お題配布元:中途半端な言葉

ランキングに参加中☆ 0574