EMSとは……
自社ブランドを持たず、複数メーカーからパソコンや携帯電話など電子機器の製造を請け負う事業形態の製造受託サービス 。設計や物流まで一貫して手掛ける例もある。製品のデジタル化に伴って汎用部品の利用が増加、複数メーカーから製造受託して調達規模を拡大するメリットが大きくなったことが背景にある。大手メーカーもコスト削減のために製造の外部委託を進めている。
経済産業省などによるとペッパーのような「サービス型」のロボットの日本市場は35年に15年の約13倍の4兆9000億円になる見通し。
世界市場ならその数倍以上の需要が期待できます。
鴻海はペッパーなどヒト型ロボット事業を新たなけん引役に期待する。
「ペッパーの量産で最も苦労したのは白いボディー」
1. 白いボディーは家電製品など向けで柔軟性が特長のABS樹脂
2. スマートフォンの外枠など向けで硬さが特長のポリカーボネート樹脂
3.ガラス繊維
の3種類を組み合わせた複合材料。
硬さと柔軟性、破損した際の飛散防止を実現するために新たに開発したが、成型には高い加工技術が必要になります。
ここに鴻海が創業以来積み重ねてきた技術の粋が集まっていると言えます。
ペッパーの総部品点数1100個のうち、樹脂部品は約200個に達する。
さらにスマホやテレビなど小型IT(情報技術)機器や家電製品の製造を得意とする鴻海にとって、これほど曲線的で大きい樹脂部品は初めてだそうです。
なぜ量産に成功したのか。金型や樹脂の射出成型は鴻海の祖業でありノウハウがあるからです。
そもそも鴻海飛躍のきっかけは金型技術。
スティーブ・ジョブズ氏が米アップル復活の切り札として98年に発売したパソコン「iMac」。
中身が透ける筐(きょう)体を作り出したのが鴻海で、そこからアップルとの取引は、スマホ「iPhone」やタブレット(多機能携帯端末)「iPad」に広がりました。
さらに、ソニーの各種製品や海信集団(ハイセンス)の薄型テレビなどを中国30カ所以上の工場で製造しており、その大半に金型や射出成型機の工場を併設。3万人以上の金型関連技術者を抱えました。
さらに、中国2カ所に全寮制の金型学校を運営。全国から選抜した若者に半年間みっちり教えて金型技術者に育て、全国の工場に派遣する。
林副総経理は元々iMacの筐体の開発も手掛けたベテラン技術者です。
金型技術を支えるのはもの作りへのこだわりです。
ペッパーの組み立て工場の入り口には赤い文字で
「做比説重要 習比学有効(話すより作ることが重要だ 学ぶことより慣れることが有効だ)」
「品質第一、効率第一、精神第一」
などと標語が書かれています。
また、問題があればその場で解決。終業前にはその日の課題を集約。翌日の始業後に改善の実行計画をまとめる。
自前主義で、製造ラインはすべて自社製、最近は手作業だった足元のセンサーの接合を自社製のレーザー接合装置に切り替え、足元のタイヤの組み立てにも自社開発の自動装置を導入する。
こうしたもの作りへのこだわりが量産、そして鴻海飛躍につながりました。
鴻海は主力の生産拠点の中国の人件費上昇を受け、産業用ロボットなどの導入による工場の生産自動化を急いでいます。
自動化効果や生産歩留まりの改善が寄与し、売上高営業利益率は3.4%で前年同期の3.2%から上昇しています。
一方、9月に発売が見込まれるiPhoneの新モデルの需要には懸念が広がる。
仕様に大幅な変更がないと見込まれているほか、中国の景気減速で売れ行きが鈍ると予想されるためです。
アップルの足元の株価も下落している。鴻海の7月の売上高は前年同月比で20%増と好調でしたが、新モデルの売れ行きが予想を下回れば今後の業績に影響する可能性があります。
中国のスマートフォン大手、創業5年で世界3位にのし上がった小米(シャオミ)は、売上高の9割を占める中国市場が減速していることを受け、新たな成長の場を求めて海外に打って出始めました。
インドやブラジルなどの新興国がターゲット。
低価格機を数量限定で売り、口コミでファンを広げるという、中国で成功した事業モデルで勝負をかけます。
その生産を鴻海(ホンハイ)精密工業グループの印工場に委託。
インド西部に50億ドル規模の工場を建設する計画を明らかにし、価格は6999ルピー(1万3400円)で、現地首位の韓国サムスン電子の売れ筋である「ギャラクシーJ5」のほぼ半額に抑えます。
その他、シャープは主力の液晶事業で、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と出資の受け入れを含めて交渉しています。
収益が予想以上に悪化しており、スマートフォン向け中小型パネルなどを手掛ける看板事業の売却を迫られる可能性もあります。
また鴻海は、インドの未開発地域プロジェクトに力を入れています。
2015年グループ企業を通じてインドのインターネット通販大手、スナップディールに2億ドル(約250億円)を出資すると正式発表しました。4.27%の株式を取得します。
鴻海傘下で、中国でスマートフォンなどを受託生産している富智康集団(FIHモバイル)がシンガポール子会社を通じて出資します。
鴻海の郭台銘董事長は6月下旬の株主総会で「2015年はインド進出が重要になる」と表明。
また「2020年までにイ ンドに10~12工場を建設する」そうです。
中国の電子商取引最大手、アリババ集団と共同でインドの電子商取引会社に投資する意向です。
加えて鴻海とソフトバンクは2015年6月、インドの携帯電話サービス最大手バルティ・エアテルの親会社バルティ・エンタープライゼズとの提携も発表。
3社で共同出資会社を設け今後10年で200億ドルを投資し、複数の大規模太陽光発電所(メガソーラー)を建てるとしています。
とはいえ、これまで巨大な未開発地域プロジェクトの歴史は喜べるものではありませんでした。
10年前に120億ドル規模の巨大工場 の計画を立て始めていた韓国鉄鋼大手ポスコやその他数多くのインド企業やグローバル企業も、アルミニウム精製所から発電所に至るまで、建設計画が失敗に終わっています。
事実、2006年に初めてインドに参入した鴻海自身も困難に遭遇しています。
同社は14年、顧客であるフィンランドの通信機器大手ノキアが税を巡るインド政府との対立の後製造を停止したため、工 場の閉鎖を余儀なくされました。
スマホなどの電子機器を製造する工場は、広大な土地と十分な労働者、輸出のための整備された道路や港湾が必要となるが、インドはそれら全てに課題を持っています。
その結果、インド国内の電話やテレビのほとんどは輸入品で、特に中国から輸入しています。
郭氏の大胆な計画が結果を出せるか否かは、土地をはじめとする一連の手ごわい実務上の問題を如何に解決するかにかかっています。
ただ、鴻海の懸念材料として一つのニュースがあげられます。
鴻海の中国・鄭州市にある工場で、28歳の男性従業員が死亡していたことを認めました。
米NPOが同工場内で男性が飛び降りて死亡したと伝えていました。
鴻海の発表によると、男性は2010年10月から同社で働いており、4日に鄭州市の工場の建物の外で死亡しているところを発見されたそうです。
鴻海は2010年に、軍隊式の管理体制に対する疑惑が持ち上がり、また中国国内の工場で自殺が相次ぎ、非難を受けていました。
同社は従業員に対するカウンセリングを強化したり、時に法律が定める基準を50%以上も上回る水準まで最低賃金を引き上げたりするなどの措置をとっています。
いずれにせよ今後の鴻海の動向から目が離せません。