マドリーは、アウェーでの1戦目を0-1で落としているため、この試合は何としても勝たなければならない。


前半から、サンチャゴ・ベルナベウは異様な雰囲気でゲームが展開される。



前回も書いたように、現在のマドリーの強さの源は“パワー”。それについて、もう少しフットボール的にも噛み砕いていきたい。


この試合、前半の早い段階でマドリーが先制し、トータルでのスコアをイーブンにする。


この一連のプレー、決定づけたのはグティ。決めたのは、ロナウド。グティが自陣でボールを受け前を向くと、前線でロナウドがマーカーを外す“デスマルケ”の動きからスペースに抜け出す。あのポイントに出せるのはグティくらいではないだろうか、というくらい狭い間隙を、グティ特有の柔らかいパスがその左足から繰り出される。ロナウドは猛ダッシュでDFより先にボールに追いつくと、素早くボールをスペースに持ち運び、左足を強襲、低い弾道のシュートがGKの股下を抜けた。一連の速いプレーに全くついて行けないリヨンDF陣とGKはその勢いに圧倒され、ゴールを許した。



この“スピード”“勢い”こそが、このマドリーの“パワー”となっている。


端的に言えば、マドリーは相手陣内でプレーする時に、強さを発揮する。相手陣内に一度入れば、人数をかけ、ゴール前の密集地帯からシュート、そしてその後の波状攻撃を仕掛け続ける。


この日のリヨンも、アウェーでリードした状態でゲームに入ったことで、自陣に退いて守備をする戦術でゲームを始めた。それが、マドリーの強さを引きだしてしまう結果となった。この前のセビージャも、2点リードしてから守備を引いてしまったことで、おかしくなり、歯車が狂い始めた。


これを可能にしているのは、前線のトライアングル、カカー、イグアイン、ロナウドと、タテパスを入れるグティ、X・アロンソの存在。それにSBで高い位置を取るS・ラモスとマルセロ(アルベロア)だ。


前線の3人、特にロナウドとイグアインは個人の選手としても、パワーがある。ボールが収まるし、多少DFを引きずってでも前に出れる力強さがある。その二人にタテパスを入れ続けるのが、グティとX・アロンソ。この二人はタイプ的にものすごくタテパスを意識する。


そして、なぜタテパスが入れやすいかと言えば、両SBのS・ラモスとマルセロ(アルベロア)が高い位置を取って上がってくるから、相手守備陣が横に引っ張られるのである。



しかし、この日。違ったのは、リヨンの対応だった。


前半は押せ押せだったマドリーに押され、防戦一方。テンパり始めたピッチ内の選手たちに、最早打つ手はなかった。だが、イグアインのシュートがポストに当たったり、いくつかの幸運に助けられ、リヨンの選手は後半巻き返しのチャンスを得た。


そこで、戦術を変えてきた。


トータルスコア、1-1。アウェー。絶体絶命。リヨンに、失うものは何もなかった。


積極的にラインを上げ、前線からプレスをかける位置も少し高めに。ただ、印象としては、「前線からプレスをかけたから、ラインが上がった」のではなく、「ラインを上げたから、プレスをかける位置も自ずと上がった」のだと分析する。



つまり、重要だったのは、“プレスをかける位置”ではなく、“ラインの高さ設定”だったのだ。



リヨンの選手たちは、勇気を持ってラインを上げた。もちろん監督の指示であり、それを指示した監督も称賛に値するが、あれほどの強烈な個を持つ選手たちを目の前に、ラインを上げ続け、高く保つことは、口で言うほど易しいものではない。ピッチレベルで、その恐怖とパワーは、理屈ではなく守備時の選手たちをペナルティエリアのラインに釘づけにする。


5メートル。


実質、それくらいの距離だったと思う。


この5メートルの勇気が、マドリーの攻撃を緩和させた。今度はマドリーのリズムが狂い始めた。ラインを上げたということは、FWライン、MFライン、DFラインの3ラインをコンパクトに保つということだ。それはつまり、「セカンドボールを拾いやすくなった」という効果を発揮した。



それはどういうことかと言えば、マドリーの波状攻撃が少なくなったことを意味した。



これでマドリーはゲームを創りにくくなった。


相手DFが自陣に釘づけになってくれれば、相手陣内でグティにボールを集め、それが攻撃のスタートのスイッチとなり、前線は動き始め、SBは高い位置を取る。そして、タテパスを入れるか、サイドに展開して横に広げる。多少DFに弾かれても、相手陣内で人数をかけているため、セカンドボールを難なく拾って再び波状攻撃を仕掛ける。


しかし、それができなくなったため、ポイントをどこで作るか迷いが出始めた。早目に一度前線に預けるのか、自陣に引いてきて低い位置でもグティのオーガナイズに頼るのか、サイドの高い位置で起点をつくるのか。それが、曖昧になり始めた。


リヨンは、したたかに狙っていた。刻々と崩れていくマドリーのリズムとゲームプランを、狡猾に汲み取り、ジャイアント・キリングを実行しようと目論んでいた。


そう、カウンターだ。


そして、機は訪れた。後半30分過ぎ、一瞬の隙を突き、マドリーDF陣に空いた“穴”を、リヨンは逃さなかった。PA内でFWの選手が潰れ、クサビが入り、3人目の動きで抜け出した選手にダイレクトのコンビネーション。PA内で綺麗に、そして素早くボールがつながり、カシージャスのニアサイドがぶち抜かれ、失点。


トータルスコア、1-2。


この時点で、マドリーは2点を返さなくてはならなくなった。1点では、トータルスコア1-2だが、アウェーで0-1で負けているため、アウェーゴール方式でリヨンに軍配が上がってしまう。


マドリーの選手たちは、さすがにガクッときていた。


ペジェグリーニにも、打つ手はなかった。カカーに代えラウール(この交代は今後議論を呼ぶであろう)、アルベロアに代えディアラでは、試合展開をひっくり返すほどの変化は望めなかった。


最後の手段、マドリーのパワープレーも虚しく空転。そのままタイムアップ。


トータルスコア、1-2。


マドリー、ベルナベウにて散る。