僕のプレーする9部リーグは残すところあと1節。
先週はその最後のうちの2試合を消化した。 その試合自体は、1-1の引き分け。いつもは夕方に試合をする僕らも、その日は昼の12時のキックオフ。最近気温が上がってきているバルセロナにおいて、それは試合が停滞することにつながった。 というわけで、試合自体はグダグダした展開。前半開始から集中力がなく、締まりのない試合となってしまった。
その中で僕は孤軍奮闘。ここ数試合では比較的出来の良いパフォーマンスを発揮した。 最近課題にしていた「前にボールを運ぶ」ということ。僕はサイドの選手なので、スペインではいかに自分で(ドリブルで)前にボールを運べるか、ということが重要視される。前への推進力、突破力。
ハーフウェイあたりでボールを受け、スペースがあったためスピードに乗ると、一気に加速。相手SBを「裏街道」と呼ばれるフェイントでかわし、ブッち切る。グイグイ加速し、PA手前で相手がスピードを殺そうとファウルで自分を止めようとするも、お構いなしにドリブル。GKが出てきたところを交錯しつつトゥキックでシュート。
ゴールならず。
これはこの日のベストプレーだったが、やはりゴールをしないことにはこちらでは評価というものはついてこない。 この日はゴールがなかったため、自分は評価の対象にもならなかったと言えるだろう。少なくともこちらに来てからは自分ではそう考えるようにしている。
だがしかし、流石スペイン裾野が広い。見ている人というのはどこにでもいるものだ。 この日の試合後、シャワーを浴び、いつも通りロッカールームから出てくると、スタジアムを出る際に見知らぬ男性に声を掛けられた。
「今日の君のプレーは良かった。来季うちと契約してほしい」 と、相手チームの強化部長さんからのラブコール。
聞くと、 「来季は本格的にチームを作って上のカテゴリー(8部)への昇格を目指そうと思っている。そこで、選手を強化したいと考えていて、君のような選手が欲しい。ぜひうちと契約してほしい。」 とのこと。
僕は、 「今、チームを変えようとは考えているけど、俺はもっと上のカテゴリーのチームと契約したいんだ。だから、まずは7部のチームのトライアウトを受けようと今考えていて、そこで契約することを目指している」 と答えた。
すると、その後。さらに出口に差し掛かったところで、相手の監督が俺を見つけて走ってきた。
「来季うちと契約しないか?」
それに対し僕は、
「今さっき聞いたよ。でも、俺はもっと上のチームで来季はやりたいんだ。」
彼は、 「俺らは来季真剣に8部を狙おうと考えている。だから、もっと能力に優れた選手が欲しい。選手にお金を払うことも考えているし、もっと強いチーム作りに励んでいくよ。」 と言い、続けて、
「興味があったら連絡してくれ。携帯は持っているか?番号を教えてほしい。」
「君にも僕の番号を渡しておく。いつでも連絡をくれ。僕らは君を待っている。」 と締めくくり、別れを告げた。
スペインで初めてスカウトを受けた。それは、レベルがどうこうではなく、素直にうれしかった。
しかし、上辺では虫のよいことを言って、内実が伴わないことがこちらでは実に多い。なので、あくまで「自分がどうしたいか」を判断基準に行動しなければならない。あとで「話が違うじゃないか」と泣きついても、誰も助けてはくれない。責任を負うのは、他の誰でもなく自分だ。
また、こちらではこういう「引き抜き」が日常茶飯事なんだろう、と思えた。良いものがあれば、すぐに採用する。その代わり、チャンスは一瞬。それに対する変化もまた早い。 それでも、こちらの選手、監督、スタッフというのは羨ましい、と思ってしまった。もちろん厳しさもプレッシャーも多い中で、という条件付きであるものの、純粋にフットボール界に「競争社会」が息づいている。それが如何せん羨ましい。
自分もそういう中の切れっぱしに足を踏み入れられたのかな、と思った。それは、「スペイン社会に溶け込む」という目標と同時に掲げていた大きな目標の1つだ。「スペインフットボールの一員となる」という目標。 それは、この1シーズンを通しての目標だった。 目標の切れ端をつかみ、更なる深い目標達成に向けて。 僕は前に進む。