この通りの話があります。
体を張る芸をメインにしているとどうしても三流扱い。
「人に笑われる芸は、話術で人を笑わせる芸能とは格差がある」という見方が一般的ですから、無理もありません。特に裸芸人またはリアクション芸人は相当な鍛錬を積んでも、技術として高いスキルがあっても、ドがつく根性があっても、苦労人であっても、『人に笑われているだけのピエロ的存在』以上には花咲きにくい傾向があります。(地方巡業・営業では重宝され、TVではギャラも安く敬遠される。これは苦情数量の差。)
A氏はリアクション芸をメインとし、35年以上もの間、第一線で活躍なさいました。
Aさんの弟子格には『かつて人生のどん底を味わった芸人B』がおり、褒めて伸ばす教育方針で養ってきていました。
いつしかBは『TVで観ない日がない』ぐらいの一流になり、A氏を師として恩人として崇めるようになっていきました。
飲み屋でA氏をボロクソにけなすヤンキーを許せず、腕に自信があるわけでもないのに怒りに任せてBはそのチンピラを半殺し状態にまで殴り、土下座を強要させました。
以上の噂が真実だったと仮定して。
美談とは思いません。
「タレントだったら、そういう心理もあるだろうな」ぐらいであり、Bが男らしいとか師匠思いだとか、義理人情に厚いといった言葉で高く評価はしたくありません。
実際にBは頭が切れます。
売れっ子になる素養は持っていたわけで、あとは運だけ。
芸能界で指す運とは、ほとんどが人脈のことです。
リアクション芸で名を挙げたA氏がBを食べさせていた時代、これこそが『Bを売れっ子にするパイプにAがなる』時代でした。そして自然にBに仕事が舞い降りてきます。これが運です。
「恩師を悪く言うヤンキーをボコボコにした」
と聞けば、強さや漢らしさ(おとこらしさ)を感じる人が多数を占めます。
しかし、本当に強くて漢らしさを持っているならば手を出すことはなかったわけで。
なぜ辛抱できなかったのか、理解に苦しみます。Aさんの凄みは「分からない人には分からない」ものです。それでいいじゃないですか。
Bは賢い。
勝てる勝負しかしなかった公算がある。
ヤンキーとは「他者に迷惑をかける、精神的年少者」のこと。
相手にしないほうがより賢いはずで、Bのクレバーさに傷が入ります。
また、その話を聞いて師匠A氏が喜ぶとは思えません。
残念ながら昨年(2022年)Aさんは故人となりました。
寂しくなるバラエティ班。
Bは善い弟子でしたか?
1970~2005年ぐらいまで、TVがメインだった時代。
皆、TV番組こそ娯楽の主流としてパーセンテージを広めに取っていました。
ですから、TV業界もストライクゾーンを広めに取り、「ここまでは許す範囲」が現代より大きかったようです。
暴言、暴力、反社を臭わすコントが許されていた時代。
たしか。
バタフライナイフもTVで「かっこいいもの」扱いされ、のちに所持禁止物になったようで、たとえテレビドラマのワンシーンであれ映せなくなったと聴きます。タバコを吸うシーンがテレビから消えたことも同じような理由かもしれません。
現在の主流はTVではなく、「たくさんあるものから皆が好きなものを選ぶ」感覚です。スマホが楽しいならそれを選択し持ち歩く、漫画が楽しいなら漫画、ライブでもいいしスポーツイベントでもいい。ものすごく観たい番組があったとしましょう。それでも、別に見逃したにせよ配信されていますのであとから追っかけることができます。ウエブ専用マネーを支払ってでも観たいものがあるわけで。でもそれは元々はテレビ(または芸能界)から始動し発信されたもの、のはず。
バラエティのフリートーク番組でピーという発信音によって演者の言葉がかき消されると、昔は「何を言ったのだろうか」と話題になったものです。視聴率を取るひとつのテクニックがあの発信音だったのかも。
やがて演者は口元を手で隠しながら(人名などをあげる際は特に。)喋るようになりました。映像での解析はできず、録画しても「分からないものは推測するしか無い」ようになりました。しかし、観客がスタジオに居る場合は別で、その方々はピーという発信音がないので「何を言ったのだろうか」を知っています。そしてネットでカキコミされるため、演者は放送上ふさわしくないワードは控えるようになっていきました。TVがつまらなくなっていった要因の一つでもあります。
そこに目をつけたのが先述のBで、伏せることなく全て放送してしまう戦術によって『Bの存在価値』を高めることに成功しました。
当時、大した芸とは思いませんでしたが、実名を挙げて著名人を悪く言うBの持ちネタは、需要が高かったために『芸』として世間に重宝されたようです。
ストライクゾーンは自分が決める。
度胸はあるようです。
今は誰も彼もがネットで稼げるためか、良いことか悪いことかを考える前に動き、撮影し、アップロードしている感があります。
痴漢や万引きなどを取り押さえ、盗聴器を見つける番組はそもそもTVが作り上げた『発明』で、一般人ができるものとは思えません。それでも現代は「確たる証拠があるなしに構わず」「資格あるなしに構わず」配信している時代。
TVはそれらに対し、敵いそうにありません。
特許を取っておけばよかったのに。