私だけに発語を許す子供がいる。

 

その子は半年間私が入るまで一言も話さず

一歩も動かない生活が続いていた。

 

冬でも夏でも、一歩も動かないので

しっかりと厚着をし、死んだ目で座っていた。

 

 

一言も話さないので、初めは皆言葉の壁だと思っていた。

 

私が顔面を風船でしばき出してから

笑って走り回るようになった。

 

先生は私のことをマジシャンだと呼ぶ。

どれだけ何をしても動かない子だったから。

 

 

今は私に対してのみだが、死ぬほど喋るし、

「お前どこいったん?へぇ?何食べたんマジでー!

先生も好きやねんけど、先生の分も食べたんか?

何やここに入ってんのか?頂戴や」

 

という感じで私が答えると、

それに対してすごいリプライしてくれたり

 

「ホン先生僕を見て!」と、不思議な動きを繰り返したり

「普通やん!もっと凄いのやってよ(日本語)」というと

「You sounds funny!」などと爆笑してきたりする。

 

抱きつきとかもすごいやられる。

「重いわ!腰いわす!」と引き離すが

爆笑して「You are so funny!」と

繰り返してやってくる可愛い奴である。

 

 

 

おそらくコレは場面黙秘症の一部だと思う。

 

いうて私は専門家でも何でもないし、

ちょっと齧っている程度の人間なので断言はできない。

 

 

初めは親も「そうなんです?話すんです?」と信じてもらえなかった。

 

 

「賢い子ですよ、peninsulaっていう単語も知ってました」

「XX(観光地)いったらしいですね、飛行機にも乗ったっていうてました。」

「今日はX君とX君と犬のように走り回らせました。よく寝ると思います。」

「明日はご家族のメンバーのお誕生日らしいですね、おめでとうございます!

X君がめっちゃ張り切って話してくれましたわ!」

 

 

等の話をして親御さんが「ホンマにそんなに話すんね?!」

の喜ぶ顔を見るのが、自意識過剰かもしれないが、

まぁある意味のやりがいにもなっていた。

 

 

彼が「僕は2個の学校に行くねん」と話してきた。

 

お迎えに来た親御さんに

「2個学校行くっていうてるんすけど、何なんすか?」

と聞くと、スッと顔を曇らせて

 

 

「しばらく前に うちの子、

学校のインタビューを受けたんです。

一言も喋らず動かず、全部不合格になりました。

だから、もう一回申し込んで、

今度こそは喋ってくれるようにって思って…

それで2個申し込んでみたんです。」

 

 

ホンマに不憫で申し訳ない。

 

後ろから室長が

「ほんまやデェー、ホン先生カバンに詰めて小学校行くんか?

もうちょっとお喋りしよな」とトスを投げる。

 

 

 

室長はエクストラにナイスな先生なのだが

ニコニコしていた彼の顔はスっと固まった。

 

 

 

まだコイツにできることはある。

 

もう一回風船でしばいとくわ。