私の名前はヴェラ・ロサコフ。
東京のとある町の一角で、小さな小さなお店を営んでいるわ。
愛する黒猫ケルベロスと二人、
アントーニオと名乗るお客様をお迎えしました。
私のお店は、人の魂を揺さぶるお飲み物もお出しいたしますが、
本当にお客様が求めていらっしゃるのは、私のタロット。
豊饒なワインなんぞは、ただ、お喋りを導くためだけのもの。
「マダム…僕は、愛する人との未来を貴女に訊ねたくて…。」
アントーニオが、一気にシャトーボーモンを飲み干して、
カウンターに両手を重ねて置き、私の目をまっすぐに見つめる。
「マダム、僕は、婚約者のいる女性を好きになってしまいました。
もうすぐ彼女は結婚式を迎えてしまうのですが、僕はどうしてもあきらめられない。」
本当にね、アントーニオのような出会い方をしてしまう事は
案外少なくないものよ。
私は、そんな出会いから始まった恋愛も否定しないわ。
ただ、その愛の行方が巻き起こす事柄を、引き受けることはできるかしら?
愛する人を貴女が手に入れることで、
愛する人を手放すことになった誰かの思いを傷つけてしまう事、
その人の悲しみや苦しみを受け取りながら、
それでも幸せになるという覚悟を抱けるかが、鍵なのよ。
「覚悟はおあり?」
私もまた、一呼吸を置いて、
黒猫タロットのデッキをクロスに広げるの。
