昨日、ディシジョンマインドの籠屋(こもりや)先生から、新たなコラムのメールを
いただいた。
いつもであるが、筋のいいディシジョンをしていくにはどうしたらいいか、考えさせて
いただく機会になります。
クローズドの内容ですが、先生に掲載の件ご報告させていただいており、今回も
転記させていただきます。
【ディシジョンマインド eニューズ】
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[ディシジョンマインド 雑感コラム] ディシジョンマインド 代表 籠屋邦夫
●企業ビジョンって何?
「日本企業にはビジョンや戦略がない」と、よく言われます。ではいったい、ビ
ジョンとは何なのでしょう?
私は、そもそも、こういう言い方をする人達の大半に、少なからぬ不信感を覚えて
います。
なぜなら、彼らはこういった批判・警句めいたことをいう割には、いったいどんな
ものがビジョン足りうるもので、それを作るにはどうしたら良いか、といった具体
論に踏み込むことが少ないからです。
世間一般に「企業ビジョン」として打ち出されるものの中身の、典型的なパターン
は、「スローガンと数値目標」でしょう。
美辞麗句的な言葉(スローガン)と、高くかかげた数値目標は、確かにわかりやす
いものですが、果たしてものの役に立っているのでしょうか?
企業業績が良い間は、スローガンはそれなりに聞こえが良く、「立派なビジョンが
企業業績を引っ張っている」と思われがちですが、実態はその逆で、「業績が良い
から、美辞麗句的なビジョンが、立派に見えているだけ」というケースの方が多い
のではないかと思います。
そして数値目標は、うまくいっている熱気をさらにかきたてるべくトップが掲げて
いるが、社員はそれほど気にしていない、というのが実態でしょう。
従って、いったん事業環境が激変して厳しくなるとともに、皆正気に戻って、美辞
麗句も数値目標も横に置いて、現実の戦略課題に取り組む、ということになりま
す。。。ということは、実質的には、こうした企業ビジョンは、企業がうまく行っ
ている時の、トップの自己満足、社員のお祭り騒ぎの対象、という以上の役に立っ
てはいない、というと言い過ぎでしょうか?
数値目標といえば、よく「ストレッチ目標」ということが言われます。
「今の延長線上で、そこそこできるだろう」という数値ではダメ、という意味なの
ですが、かといって「ありえない」と思われては意味がありません。
従って、「今の延長線上では到底できそうにないが、工夫とやる気次第でなんとか
できるのではないか」とミドル以下の社員に思わせられる、ぎりぎりのラインとし
ての数値目標を設定できるのが、トップの腕の見せ所です。
そのためには、「いざとなれば自らやってみせる」という気概と、それを支える実
質としての、具体的事業構想や、その一歩手前の戦略着眼点を、自ら示せる必要が
あります。
それができるからこそ、社員や関係者に「ありえるかも」と思わせられるストレッ
チ目標の設定が可能になるわけです。
さもないと、「ありえない数値→トップ自身に何の確たるアイデアも根拠もない、単
なる願望・妄想を無理やり押しつけているだけ」と見破られ、社員の大半はしらけ
るだけです。
私の知るある大企業では、数年前まで好調だった業績が、今ずいぶんと悪化してい
るのですが、それでもトップが、以前掲げた「ありえない数値目標」の達成を各部
門にいまだに迫っており、いまや心あるミドルやシニアの大半が、「そんなありえ
ない数値の達成を迫られても、とにかく今は現場での状況対応と改善を必死にやる
だけ。目標数値未達なら降格、とかなんとか恫喝するなら、どうぞご勝手に!」と
いった気分だそうです。
こういう「ゴタク(美辞麗句のスローガン)とありえない数値(と恫喝)」の企業
ビジョンは、百害あって一利なし、ということです。
ではいったい、役に立つ企業ビジョンとはいったいどういうものでしょうか?
私は、二つの階層ないし段階で考えると良いと思っています。
一つは長期的・超長期的「ミッション・ビジョン」、二つ目は短・中期的「大枠の
戦略方向性」です。
まず「ミッション・ビジョン」ですが、これは、「企業や事業として世の中に誕生
し存続し続ける理由」といったもので、多くの企業では、大枠の事業ドメインや、
事業のやり方に関する原理原則が語られるものです。
高い志やロマン、また崇高な目的といった意味合いのもの、少なくとも10年、2
0年、場合によっては永続的にこれで行くんだ、という熱い思いが語られるもので
す。
松下やソニーの創業の頃の「水道哲学」や「愉快なる工場」などがその典型的な例
だと思います。
一方、「大枠の戦略方向性」というのは、もっともっと実務的なもの、短・中期的
に事業価値を高めるための、時限立法的なものです。
たとえば「選択と集中」とか「ハードからソリューションへ」というのが典型的な
例ですが、これらの言葉のどこにも、崇高な目的や社員を高揚させる要素はなく、
これまでの「なんでもかんでも手を出しすぎて、結局どの事業も機能も中途半端」
や、「顧客の求めるものや状況が大きく変わっているのに、相も変わらずハード単
品の売り切り商売だけでは、もうやっていけない」という状況を打破するために掲
げられた、方向転換のスローガンなのです。
これらの例でもわかるように、「大枠の戦略方向性」については、これまでの方向
性を明確に否定しているところに特徴があります。それが「時限立法的」というゆ
えんで、今までとは違う方向に企業を引っ張っていくのですから、こうしたスロー
ガンをいつまでも言っているようではダメで、方向転換は数年以内に完了し、その
後はもうそのスローガンは言う必要がなくなるようにしないといけないのです。
(この際、数値目標の設定は、スローガンを補完し、数年以内に到達したい目標レ
ベルを、分かりやい目安として提示するという意味で有効だと思います。)
「数年以内にそのスローガンを言う必要がなくなるようにする」ためには、打ち出
した「大枠の戦略方向性」を実現するために、具体的に取り組むべき複数の戦略課
題のリスト(=戦略アジェンダ)を策定し、各課題についての取り組み体制・担当
を決めることが重要です。
そして、具体的解決策の策定と実施を、トップの腕まくりリーダーシップのもと、
ミドル・前線の組織一体となった取り組みをしていく必要があります。
まさに、そこのところでディシジョンマネジメントの方法論やディシジョンマイン
ドの考え方が有効に働くことになる、というのが私の持論なのですが、これらの中
身については、皆さんにはすでにお伝えしているので、これくらいにしておきま
す。
さて、話を「ミッション・ビジョン」に戻しますが、私の仮説では、良い「ミッ
ション・ビジョン」には、「好き」と「得意」と「喜ばれる」という要素が含まれ
ていると思います。
まず「好き」は、社員・企業として、ともかく自分たちはこれが好きなんだ・それ
をやること自体が嬉しいんだ、それを徹底追求して、極端に言うと、たとえ食えな
くても(つまり儲からなくても)なんら悔いることはない、という強い思いです。
「愉快なる工場」などは、これの典型例かと思います。
次に「得意」とは、文字通り、他社に比べて優れていることがらで、世の中には
「好き」であっても「得意」でないので食えない、ということもあるため、この要
素が必要になります。
「○○技術で社会に貢献」といったタイプのものです。
三番目の「喜ばれる」は、「こういうタイプのお客さんに喜んでもらいたい、こう
いう貢献をして行きたいんだ」というもので、松下の「水道哲学」などは、その典
型例だと思います。
この仮説にもとづいて、(少なくともウェルチさん以降の)GEという会社をみてみ
るとどうでしょうか?
(あくまで私の私見です。念のため。)
まず「好き」は、「#1になること」のように見えます。そしてそれを「得意」の
こととして磨き込むための、組織的なマネジメント能力構築や継続的レベルアップ
に、なみなみならぬ努力・投資をしてきています。
一方「喜ばれる」の対象は「株主」で、事業業績の驚異的かつ持続的向上を通じて
喜ばせています。
(もちろん各事業の業績向上においては、それぞれの事業の対象とする顧客が喜ん
でくれることが必須ですが、これはどんなビジネスでもそうなので、この部分にGE
としてのとくに強い思い入れは感じられないように思います。)
こうしたGEの「好き」と「得意」と「喜ばれる」の中に、「水道哲学」や「愉快な
る工場」にみられる、美しさ・美学といったものは、あまり感じられませんが、あ
そこまで徹底すると、ある種の「すがすがしさ」は感じられます。
最近イメルト会長が「エコマジネーション」ということを言い始めていますが、こ
れなどは、典型的な「大枠の戦略方向性」でしょう。
つまり、環境関連に大きなビジネスチャンスがあり(もちろんそのこと自体、人
類・社会への貢献なのですが)、これまでGEはその観点での取り組みが弱かったの
で、今後、意識的にここに注力することで企業価値をさらに大きくして行くんだ、
という宣言です。これがうまく行けば、多分3~5年後には、もう「エコマジネー
ション」はいわなくなり(つまり言う必要がなくなるので)、次の新たな「大枠の
戦略方向性」を打ち出してくるのだろうと予想されます。
また少し話が長くなってしまいましたが、皆さんの会社においても、是非「ゴタク
とありえない数値」ではないミッション・ビジョンと、実務的な「大枠の戦略方向
性」&「戦略アジェンダ」により、実践的に企業革新・事業業績向上に取り組んで
頂きたいと思います。
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私も、営業での情勢が悪いにも関わらず、過去の延長による売上計画の報告には
腹立たしいものがあった。
最近では、自社の企業のミッションが、多様に解釈される傾向にあり、私自身も
わからなくなってしまう事が多い。長期・中期などで考えていけば良いと改めて
認識しました。