ガルシア・マルケス著『わが悲しき娼婦たちの思い出』を読む
ガルシア・マルケス晩年の作品。木村榮一訳。
『満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考えた。』という衝撃的な書き出しで物語は始まります。
舞台はおそらく南米コロンビア、マグダレーナ川畔の港町。
書き出しにあるように、主人公の“私”は馴染みの娼家に頼み、淫靡で破廉恥な誕生祝いを画策します。
娼家が用意したのは14歳のうら若き処女、デルガディーナ。しかし主人公はその乙女に指一本触れることが出来ませんでした。彼はデルガディーナに恋をしてしまったのです。しかもそれが、90歳にして初めての恋。
『ああ、これが恋なら、なんと辛いものだろう』
そんなある日、娼家でトラブルが起こり、デルガディーナが失踪します。彼は苦悩し、絶望し、自棄になり、彷徨います。
さて、二人の恋の行方はいかに。
尚、この物語の背景には様々な音楽が流れています。
暑さに耐えられそうにない時は『ドン・パブロ・カザルスが編曲した決定版とも言えるヨハン・セバスティアン・バッハのチェロの独奏のための六つの組曲を聴いて、気持ちを落ち着かせようとした。』(J.S.バッハ/無伴奏チェロ組曲)
90歳の誕生祝いのプレゼントの中には『シュテファン・アシュケナーゼの演奏でショパンの二十四のプレリュードが収められたレコード』があった。(ショパン/24の前奏曲)
他にも、『モーツァルトの四重奏曲』、『ワグナーのクラリネットと弦楽のためのアダージョ』、『ドビュッシーのサキソフォンのための狂詩曲』など。
また、音楽に対する描写や表現も豊かで、 『大洪水を思わせる彼の作品にあってエデンの園のような安らぎをもたらしてくれるブルックナーの弦楽五重奏』、『サティの禁欲的で叙情味をたたえた曲を聴いて、気持ちを静めようとした』など、著者の音楽への造詣の深さが伺えます。
それ以外で流れているのがボレロ。流行のボレロだったり、静かボレロだったり、熱っぽい声でうたうボレロだったりいろいろです。
この物語に登場する音楽はガルシア・マルケスのお気に入りの音楽と思われます。よって、ガルシアを読む時には、上に挙げた音楽をBGMにすることをおすすめします。ショパンでもワグナーでも、又は『スペイン風の舞曲(ボレロ)』でも、どうぞお好きなものを。