戦いが終わったそれに残ったものは、折れた剣と大量の屍とどこまでも昇る煙と纏わり付く虚しさと勲章とは言い難い傷跡だけだった。
この悲惨な光景をどう説明しようか。
この痛みをどう表そうか。
私にはその為の手段が見つからない。持ち合わせていない。目を背けることしかできない。
・・・原因?
沢山あったようで、たった一つだったようで・・・。
結局のところ、この醜い争いを制したのは、我が軍「大日本帝国」であることには変わりない。
多くの命の、犠牲という名の生贄によって。


-大日本帝国軍北関東支部司令室-

「この度の戦果、まっこと見事なものだった。今後も期待しとるよ、片桐大尉。」
私こと、「片桐 渚(かたぎり なぎさ)」は今回の作戦、「旧アジア大陸上陸作戦」で世界で初めて大罪魔装(ギルティー・ギア)を用いた大規模な殲滅戦を行い、敵国の抵抗で若干の被害は出たものの、結論から見れば大勝し、凱旋を果たした。

「しかし、そのギルなんとかとかいう新装兵器は大したものだな。それ一台であのアメリカのエイブラムス以上の・・・いや、戦車と比較するのもおかしな話だが、とにかく素晴らしい兵器だ。開発したのは・・・たしか・・・」

「大日本帝国軍東北支部兵器開発室室長及び、魔装研究担当少佐相当官 早川 雄一です。」
私はとっさに、上官が私の友人の名前を思い出し、口にする前に開発者の名前を言った。
予め言っておこう、私はその上官こと「浦部 一(うらべ はじめ)」少将のことが嫌いである。

「そうそう、早川君だったね。確か・・・君の友人とか?」
この狸オヤジめ。そんな風に思った。この浦部という男は全てわかっていて質問している。
卑怯、狡猾、無慈悲。そして自分は高みの見物。そんなダメな上官を絵に描いたような男なのである。

「・・・はい。しかし、それがいかがいたしましたか。」
この狸の事だ、私と早川が友人ということを予めリサーチしていたのだろう。そして、早い段階でギルティー・ギア開発に目を付け、友人である私をこの部隊に呼んだ。
戦争という名の人体実験。完成間近ではあったが、まだ開発途中のギルティー・ギアを無理矢理に使った強行作戦。開発途中であるだけに負けた時の言い訳ならいくらでもある。作戦で大した戦果が得られずとも良し、得られた場合は、優先的に今私が所属している部隊、「大日本帝国軍北関東支部」に、ギルティー・ギアを配置するつもりなのだ。
そして、唯一にして最大の嬉しい誤算は、このギルティー・ギアが予想以上の活躍を果たした事だろう。
この狸はコイツが欲しくて欲しくてたまらないのだ。
私は、右腕に装着したギルティー・ギアをチラッと見た。

「いや、私は誇りに思うよ。君のような優秀な部下と、その繋がりを・・・ね。」
チラッとこちらに振り向き、露骨なまでに私と早川の関係に対し、いやらしい期待の目を向けた。
「ところで、片桐君。次の作戦まで猶予がある。ここらで骨休めをしてはいかがかね?」

「・・・と、いいますと。」

「ご実家の両親も心配しているだろう。しばらく、故郷でゆっくり過ごすといい。雑務は他の者にやらせておく。友人と積もる話もあるだろうしな。」
結局そこか。
前言は建前であり、要約すれば、早川に会いに行け・・・あわよくば。といったところだろう。
「しかし、こんな時に私だけ骨休めなど・・・」
話の腰を折るように浦部が被せてきた。
「こんな時だからだ。また戦争になればしばらく自由に動けなくなるだろう。これは戦果を上げた者の特権というやつだ。」
浦部はゲラゲラと笑って答える。
「わかりました。では、しばし休暇を頂きます。」
「うむ。君の部隊の者には私から声をかけておこう。ゆっくりしてくるといい。急用ができた場合はすぐに呼び出すかもしれんがな。」
「了解しました。それでは失礼します。」
敬礼し、部屋を後にしようとした時、浦部が引きとめた。

「おっと、そうだそうだ、君の部隊の秋月君も連れて行ってくれたまえ。なにやら魔装研究に興味があるそうだ。気配りの利くいい娘だよ。」

「・・・了解しました。」
浦部少将のお目付けか。骨休めのはずが、彼女を欺くとなると・・・これではしばらく骨が折れそうだ。



つづく?