今回の旅のハプニングは、台風。
厦門から泉州という街に移動しようとする前夜、それはやってきた。
雲行きが怪しくなり、雨がパラパラ降ったり止んだりし、
「もう台風は通過した」という情報もあった矢先だった。
夜、滞在していたアパートホテルの廊下から隙間風がビュービュー吹き込む。
窓の外で、風が夜じゅう吠えまくる。
あんなに激しい風の音を聞いたのは、初めてだった。
朝になり、早々とチェックアウトして長距離バスの駅に向かおうとしたところ。
町中にゴミや建物の破片が散乱し、車も人もまばら。
バス停でバスを待っていると、「バスは止まっている」との情報が。
それならば、と大通りまで歩くが、通りには片付けに大わらわの人と、
自家用車しかない。
道は街路樹が倒れている。
折しも、中秋の祭日で、開いている店も元々少ない上、
台風で断水、ところによっては停電に見舞われてしまったため、
あたりを見回しても数えるほどしか店が開いていない。
荷物を抱え、文字通り路頭に迷った我らは、
そのうちの一軒にとりあえず、入った。
こちらの人が朝食によくする、出来立ての豆乳や饅頭を売る店だ。
バーゲン会場のように人が店先に殺到し、文字通り飛ぶように売れていく。
聞けば、台風を見越して、昨日のうちから水を蓄えていたので、
今日も通常通り営業ができたという。
お客の大半を占める近所の人々は持ち帰りで買っていくので、
店奥のスペースで飲食する人は案外、少ない。
事情を説明し、仕込みをしている饅頭が出来上がるまで、
そのまま店で待たせてもらえることになった。
本当にありがたし。
饅頭が出来上がると、お客さんがまた押し寄せて来て、
あっという間に売り切れてしまった。
野菜まんと肉まん、普通に食べても本当に美味しい店だった。
人格も味に反映されるんだな。
気の良い店主夫婦は、バスなどの交通事情と泉州の情報を親切に調べてくれる。
街路樹が倒れたりして、厦門島の交通は飛行機も含め、全て遮断されたらしい。
そして、行き先にしていた泉州は、大雨で道路が川のようになり、
停めてある車が半分以上浸かっている写真を見せてくれた。
その時点で、私たちの小旅行は中止決定。
滞在していたホテルに出戻るが、もう泊まれる部屋は無いとのこと。
やっとの思いでチェックインしたホテルも、島全体の断水でトイレの水が出ない。。
翌朝には復旧したけれど、これほど水のありがたさと人情が
身に沁みたことはなかった。
日常生活は、というか、人生は、奇跡で成り立っている。