タイのショッピングモールで、タイ人の女性セールスマンに試していきませんかと話しかけられる。タイ語ができないと伝えると、同じブースにいた白人男性がでてきて、商売トークが始まる。

 白人男性「死海を知っていますか。イスラエルとヨルダンの間にある海です。その成分から作った、天然の…」

 手の甲に塗ってみると確かに皮膚がうっすら、白くなる。

 白人男性「私はイスラエルからやってきました。あなたは、どこからやってきましたか。仕事は何なのですか。タイには何年住んでいるのですか。いくつの言語が分かるのですか」

 日本語と韓国語、それから英語、読むことなら中国語、それからタイ語を少々。


白人男性「お気に入りになりましたか。定価は4780バーツ(約17200円)のところ、今日は5割引から、さらに15バーツを差し引いた値段で提供します」

 高い。

白人男性「値段だけが問題なのですか。学割もあります。学生には1800バーツで提供しています。あなたには、その価格で提供しても構いません。インターネットではこの価格ではお買い求めできません。週に1回、利用するだけでも効果があります。案外、長く使えます」

 そうですか。

白人男性「あなたは何歳ですか。あなたは普段、どのような皮膚のケアをしていますか」

 30歳で、これといってケアはしていない。

白人男性「あなたの鼻のあたり、よく見てください。シミがすでにありますね。これらは、永遠に消すことのできない痕跡です」

 いきなり、肌の欠点を指摘してくるから、頭にくる。

 俺「俺にとってシミって、勲章みたいなものなんです。紫外線の強い、熱帯のタイで暮らしたという痕跡、それは自分の生きてきた証拠のようなものなんです。それはそれで、いいではありませんか!シミができるのだって楽しい」

 と、言い返してしまう。やや奇抜な理論ではあるが、本心でもある。

白人男性「タイの人々は本当に皮膚管理に関心を払っているが、あなたは…」

 そう言って、白人男性の顔から完全に笑みが消えた。
 その場にいたタイ人の女性セールスマンは申し訳なさそうにしていた。
 この手の、中東式の押し売りセールスをタイで経験するとは思わなかったし、タイで成功するとは思えない。
 あとでインターネットで検索してみたところ同じ商品を1200バーツ程度から購入ができるようだったので、さらに、気分が悪くなった。