十月の最終日曜日、早朝の大雨がピタリと上がり、抜けるような青空が広がっていた。錦秋と呼ぶにはまだ早い古都鎌倉。この日は建長寺で、常磐津と小唄の奉納演奏会開かれた。光勢太夫さんが出演すると聞いて鎌倉を訪れた。

若い頃は、七里ヶ浜に叔父が暮らしていたので、何度も訪れていたが、今回は数年ぶりの訪問である。

最寄り駅は北鎌倉だが、せっかくだからすっかり観光地となってしまってはいるが小町通を歩こうと、鎌倉から向かうことに。

案の定、日曜日とあって歩けぬほどの雑踏の中を進んでいった。

もうとっくの昔に、以前よく入った店は全くない。二件あった古本屋がなくなっていることもわかっていたが、大通りの陶器屋もなくなっていたことに、またまたがっかり。

やっぱり食べ歩きだけのつまらない通りになってしまったと、改めて実感した。


巨福山建長寺は建長五年(1253)に落慶された、我が国最古の禅寺。鎌倉五山第一位に数えられる、名刹である。

鎌倉の山を背景に広がる広大な境内をゆっくり進むと、仏殿の先に法堂のどっしりとした建物が現れる。

混雑をみこして、かなり早く来たが、そんなことは杞憂におわった。天井に巨大な龍が描かれている堂内で、静かに開演を待った。時折爽やかな秋風が、堂内を優しく吹き抜けていく。その静寂なたたずまいが、実に心地よい。



常磐津と小唄、共に江戸時代に生まれたものだが、一度に聴くことができるのはなかなか珍しい。
堂内に三味線の音が響き渡り、どっしりとした江戸浄瑠璃の常磐津節が流れると、凜とした心地よい緊張感に包まれた。
それとは対照的に、細く可憐な小唄に、しっとりとした情緒に酔いしれた。ふと、幼い頃、母の従姉である私の常磐津の師匠が、まだ芸者をしていた頃に、耳にした小唄が懐かしく思い出された。
古きよき日本の伝統芸能の、はかない美しさ。言い知れぬ思いが、グッと込み上げてきた。
さらに、小唄に舞踊も加わり、心なごむ一時だった。





なくしてはならない尊い伝統。それを受け継ぐ事のたいせつさ。すべてがデジタル化し、ロボットに代わろうとしているが、やはり人の心の通ったものがすきでたまらない。
聴き終わったあと、なお立ち去りがたい秋の日の一時であった。
拍手を贈るとともに、心の底から合掌❤️