緑薫る5月の昼下がり、久しぶりに横浜の港を訪ねた。

待ちに待った期待の公演を観に、神奈川県民ホールへ。日曜日の昼下がり、五月日和の山下公園は、家族連れで賑わっていた。

今回の公演は、昨年コロナで中止延期となった、クリスタル・パイト率いるキッドピボットの『リヴァイザー(検察官)』である。 この作品は、昨年イギリスのローレンス・オリヴィエ賞で最優秀ダンス賞を受賞した話題作である。

これまでにない新たな試みによる作品だというが、それはどんなものか、果たして感動出来るかどうか、期待と不安?なとが、入り乱れる複雑な思いで会場に入った。



今までに観たことのない試みの作品。
ダンサーや振付家によって、作品に違いがあり新しい体験をするのはあたりまえだか、今回は全く想像だにしない驚くほどの試みがなされていた。
それは、ロシアの作家ゴーゴリの戯曲『検察官』を元に、新たに脚色された台本を、あらかじめ出演するダンサーたちが録音し、それぞれの登場人物に扮して、録音された台詞に合わせて、体全体で表現するというものだ。
観客は字幕を読みながら、ダンサーたちの演技を観ていく。
果たしてこんな舞台は今までにあっただろうか。
初めはこの形式に慣れず、何だか陳腐に感じていたが、漫画のようなオーバーで滑稽な動きは、単に台詞に合わせているのではなく、言葉や文章に触発されて動きが産み出されていることがわかると、これまでのダンスとは違った面白さが伝わってきたのだ。
録音された台詞の音声から、言葉のリズムや流れを感じながら、即興で動きダンスをする。その自由なで大胆な動きが、とても新鮮で、いままで味わったことのない感動か、沸き上がってきた。
しかも、後半には大袈裟な動きが削がれていき、内面に潜む隠された真実が浮かび上がり、前半とは違った神秘的な雰囲気が漂っていた。
本当に、始めて目にし始めて感じた、不思議な体験だった。

クリスタル・パイトは、カナダのバンクーバー生まれ。型破りの斬新な作品を創作しているが、バレエ・ブリティッシュ・コロンビア、さらにウィリアム・フォーサイス率いるフランクフルト・バレエでダンサーとして研鑽を積んだ本格派のダンサーだった。
自身のカンパニー「キッドピボット」を創立したのは、2002年。独自の創作を続けている。
その一方、パリ・オペラ座バレーや英国ロイヤル・バレエなどで委託されて、数々の作品を残し ている。
ダンサーに求めるのはクリエイティブであること、と述べるパイト。
魂を揺さぶる作品は、自由な発想と想像力があればこそ。
そうしたことを踏まえて、もう一度、じっくりと鑑賞してみたいと思った。