7月7日(日)に行われた3歳三冠ロード初戦の第49回ばんえい大賞典(BG3)は、好位の一角から第二障害をトップ抜けしたホクセイハリアー(牡3、金山)が末までしぶとく歩いて押し切り、初めての重賞タイトルを手にしました。
渡来心路騎手、金山明彦調教師ともに大賞典は初制覇で、渡来騎手は重賞通算10勝目、金山調教師は重賞通算19勝目。
馬場水分2.0%で勝ち時計は1分40秒3。勝ち馬を追って伸びたミチシオ(牡3、槻舘)が2着、障害を番手で下ったウルトラコタロウ(牡3、槻舘)が3着に続き、昨季のイレネー記念馬ライジンサン(牡3、大河原)は7着に敗れています。

ホクセイハリアーは3月のイレネー記念で第二障害にトップ付けからトップ抜けを果たしたほどで、昨季から登坂力は目立っていました。ただ、下りてからいかにも歩けず、後から下りてきた馬たちに交わされて着順を落とす、というレースぶりが多かったものです。
それを受けてか今季は、はっきり意図的に道中でタメを利かせる競馬を試みて、そこは当然ながら調教師と騎手の間でコミュニケーションを取ったうえでのものでしょうが、四走前のとかち皐月賞(私は本命でした(^^;)では結局伸び切れず、やはり行ってこその馬ではないか、とも正直思いました。
ただしそこから、グンと良くなりましたね。二走前のとかちダービーでは、3着とはいえ終い差を詰める好内容を見せ、前走の平場も、形のうえでは先行押し切りでしたが、障害に付くまでにしっかりと息を入れ、下りて末に突き放すという、昨季の一本調子な印象を払拭するに十分なものでした。

逃げ一辺倒ではなくなり、心路も位置取りと仕掛けの感覚をつかんだか、と素人ながらに思い、注目していた今回ですが、先行しつつも息を入れて障害を綺麗に越えると、じつによく歩きました。
昨季なら、もう一歩前に詰めざるを得なかったでしょうが、末脚が強化成った意識があるからこそタメを利かせられ、それがひと押しにつながる好循環で、文句なしの内容だったと思います。
ハンデや馬場に関するプラスマイナスは各馬あり、本馬にとってはプラスの面が大きかったのはたしか。とはいえ、決して恵まれたものではなく、一戦ごとに成長を示して大一番で最高のパフォーマンス、ばんえいの若駒らしい上昇度で他馬を上回りました。
金山先生はもっと先に良くなるイメージを持っていたとのことですが、ここに来ての成長急で、心路にしてはインタビューで表情も舌も動いていたのも、期待と手ごたえの証し、ではないでしょうかね。
額の流星がハートマークで人気もあるようですが、とにかく障害が安定しているのが良いですし、馬体の成長も目立ち、先への楽しみは増すばかりです。

ミチシオはタメを利かせて障害スムーズ、3番手で下ると良い脚を見せ、勝ち馬には及ばなかったものの3着以下には差をつけましたから、べつに自身が何か悪かったわけでもなく、力は発揮できたと思います。今回は勝ち馬が前哨戦以上に動いたということでしょう。
ウルトラコタロウは雨でどうかとも思っていましたが、障害一腰から止まらずにしぶとく歩き、差し返し気味に3着確保。現状では切れ味で劣るのは明らかですが、障害巧者で、今後の増量はプラスとなるはずです。来季以降も含めて長いスパンで注目したい馬です。

スマイルカナ(4着)は障害天板で危ない場面があったものの、なんとかまとめて下りから速い脚は見せました。ただ、そこから脚色が一緒になり、末は失速気味。よく動いているとは思いますが、牡馬相手だと、イレネー記念の時のように後半勝負に構える必要はあるかもしれません。
グランドスターダム(5着)は障害トップ付け、下で少し待って一腰。下りてから切れるタイプではありませんが、詰まる馬もいる中で、末までよく歩きました。登坂力は世代でもかなり上位レベルで、持ち味は出せたと思います。
フレイムファースト(9着)はタメて障害は一腰でしたが、残り20m手前で詰まりました。素質があるのはわかっているので、馬体含めてもう一段階の成長待ちです。

ライジンサンは今季初戦で馬体重マイナス8キロ。そこまで減らさずに出てきたと見るか、増えて戻ってこなかったと見るかは、パドック気配も含めて私には判断がつきかねましたが、流れに乗って障害は無難にまとめながらも、下りてから存外伸び切れず、残り20mで詰まったレースぶりからは、やはり久々の影響が大きかったと考えるのが筋ではないかと思います。

ばんえいの重賞は、平地中央のG1のように休み明けでも勝てるほど甘くない。などと書くと怒られそう、というか冗談ですが、そもそも普段の使い方や仕上げ方が全然違いますからね。
実際、休み明けと言えるような臨戦過程で重賞を勝った例となると、近年ではセンゴクエースが2歳シーズン(2014-2015)に暮れのヤングCSから3月のイレネー記念をダイレクトで使って無敗を維持した時くらいしか思い浮かびません(きちんと調べると他にもあるかもしれませんが)。
中央さんは皐月賞を年明け初戦で勝ったり、除外明けの四カ月ぶりでダービーを勝ったりする馬もいるようですが、年間で20戦以上するのが普通なばん馬を、同じ感覚で見てはならない。
もちろん、良いとか悪いではありませんし、ばんえいでも、いつの日かシーズン初戦で大賞典を勝つ馬が現れるかもしれない。今回もそのチャレンジの一つだった、と考えることもできます。
ただ、結果として申し上げるのならば、今回の上位二頭は今季古馬相手に揉まれて成長と充実を示していたホクセイハリアーとミチシオでありました。

ライジンサンに話を戻すと、成長と良化を示すのは、今度はこちらの番。格付上位ゆえに、ハンデとの兼ね合いで使い方の難しさが付いて回るのはたしかですが、昨季の重賞3連勝の内容を思えば、巻き返しがあって当然でしょう。


二冠目のばんえい菊花賞は、11月3日。
その前の8月25日に4歳との混合重賞=はまなす賞も組まれていますが、一冠目と二冠目の間隔が長いのが、3歳三冠戦の特徴でもあります。
まだ完成度が低い、言い換えれば伸びしろの大きい馬も多いように思いますので、菊花賞までに各馬がどれほど変わってくるのか。楽しみな世代です。